著作権法違反は原則親告罪。告訴を取り下げてもらう道
2026/09/01
著作権法違反は、原則として権利者の告訴がなければ起訴されない親告罪です。この一点は、海賊版の事件でご家族が最初に知っておくべき事柄です。ただし、平成30年の改正によって一部が非親告罪となったため、どの行為が親告罪のままなのかを正確に見極める必要があります。この記事では、過去に報じられた海賊版販売の事件を手がかりに、告訴を取り下げてもらう道筋、権利者との交渉で何を提示するのか、非親告罪化された範囲では何が変わるのかを整理します。
報じられた事件から
やや古い事案ですが、構造を理解するうえで参考になります。2011年2月1日の一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)の公表によれば、東京都秋葉原において、複製したCD-Rを5000円で販売し、また販売目的で所持していたとして、中国籍の3人(無職の女性34歳、専門学校生の男性25歳、無職の男性44歳)が著作権法違反で東京地検に送致されたと伝えられました。家宅捜索では海賊版約1000枚が押収されたとされています。また、2005年11月24日のITmedia NEWSの報道によれば、北海道警稚内署が、千葉県船橋市に住む中国籍の男性(27歳)を、DTPソフトをCD-Rに無断で複製して販売したとして著作権法違反の疑いで摘発したと伝えられ、一度に1000件の出品もあったとされています。いずれも当時の報道であり、記載は当時の法令と運用を前提とします。いずれも摘発・送致の段階の報道であり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
親告罪であることの実務上の意味
親告罪では、権利者の告訴が訴訟条件となります。告訴がなければ起訴できず、公訴を提起した後に告訴が取り消されれば、裁判所は実体判断に入らず手続を打ち切ります。つまり、権利者との交渉が成功すれば、有罪か無罪かを争うまでもなく事件が終わる可能性があるということです。これは、権利者の意向が処分に直結しない商標法違反や薬機法違反とは決定的に異なる点です。したがって、著作権法違反の弁護では、告訴がいつ、誰によって、どの著作物についてなされているかを確認することが出発点になります。複数の権利者が告訴している場合、一部だけ取り下げられるという展開もあり得ます。
権利者との交渉で何を提示するか
権利者は感情ではなく、被害の回復と将来の抑止を基準に判断します。交渉で意味を持つのは、次のような具体的な提案です。
- 正規に許諾を受けていれば支払われたはずの許諾料に相当する金額の支払い
- 販売によって得た利益の返還、および算定の根拠となる記録の開示
- 在庫と複製設備の廃棄、その方法と時期を記した報告
- 販売に用いたアカウントの閉鎖と、以後同種の販売を行わない旨の誓約
- 仕入先や複製の経路についての説明
権利者団体は、同種の事案を多数扱っており、抑止の観点から厳しい方針を維持することもあります。だからこそ、金額の提示だけでなく、再発を防ぐ体制を具体的に示すことが重要になります。
平成30年改正による一部非親告罪化
平成30年の著作権法改正によって、一定の範囲の侵害行為については、権利者の告訴がなくても起訴できることになりました。改正の趣旨は、原作をそのまま複製して販売するような、権利者の利益を直接に損なう悪質な行為に対応することにあります。したがって、海賊版の複製物をそのまま売っていた類型では、非親告罪の範囲に入る可能性を検討しなければなりません。この場合、告訴の取下げによって手続が終わるという道は使えません。もっとも、権利者との示談が無意味になるわけではありません。被害の回復は、不起訴の判断や量刑において引き続き重要な事情として考慮されます。どちらの枠組みで動く事件なのかを、早い段階で見極めてください。
在留資格への影響
著作権法違反は、入管法24条4号チが挙げる薬物関係の罪ではなく、別表第一の在留資格者に限って適用される同4号の2の特定犯罪にも含まれません。退去強制事由となるのは、原則として1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた場合(同4号リ)です。告訴の取下げによって不起訴となれば、刑事処分そのものが存在しないことになり、在留への波及も遮断されます。この意味でも、親告罪という性質は在留の観点から極めて重要です。ただし、不起訴であっても、逮捕や捜索の事実が勤務先や学校に知られ、雇用や在籍に影響することはあります。在留資格に応じた活動が失われれば、入管法22条の4の取消しの問題が別に生じます。
ご家族が最初にすべきこと
まず、逮捕状や送致の書面に記載された著作物と権利者を確認してください。誰が告訴しているのかが分からなければ、交渉の相手も決まりません。次に、販売の記録、入金の記録、在庫の一覧を保全してください。利益の返還を提案するには、金額の根拠が必要です。第三に、複製に使った機材や在庫を勝手に処分しないでください。廃棄は弁護人と協議し、記録を残して行います。第四に、権利者や権利者団体から連絡があった場合は、直接応答せず弁護人に取り次いでください。交渉の入口で本人が不用意な説明をすると、後の示談が難しくなります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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