頼まれて作っただけ。許諾があると思っていた場合
2026/09/01
海外の通販サイトから注文を受け、指示されたデザインの商品を作って納める。工場や小さな貿易会社にとっては日常の業務です。ところが、そのデザインが人気漫画やブランドの商標に似ていた場合、作った側が商標法違反の疑いをかけられることがあります。「発注者が権利の処理をしていると思っていた」という言い分は、どこまで通るのでしょうか。この記事では、受託して製造した側の刑事責任と、争点となる認識の証明について、報じられた事案をもとに整理します。
報じられた事件の概要
2026年3月9日から10日にかけての神戸新聞・読売新聞の報道によれば、兵庫県三田市の工場において、人気漫画の類似デザインのTシャツ等44点を、海外通販サイトの注文者に譲渡する目的で所持していたとして、中国籍の男性2人(貿易会社経営、49歳と58歳)が商標法違反の疑いで逮捕されたと伝えられました。火災報知機が作動して臨場した署員が発見したのが端緒とされています。2人は「通販サイトからの仕事だったので使用許可は得ていると思っていた」と述べ、否認していると報じられました。逮捕の段階の報道であり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
受託して作っただけでも罪に問われるのか
結論から言えば、問われ得ます。他人の商標を無断で付した商品を作り、譲渡する目的で持っていること自体が処罰の対象になるからです。誰かの注文に応じたにすぎないという事情は、そのままでは責任を消しません。もっとも、これは受託製造をした人が常に有罪になるという意味ではありません。故意、すなわち権利者の許諾がないことを知っていたかどうかが必要だからです。ここが、受託製造型の事件で最も激しく争われる点になります。単純に「作った側だから重い」「注文した側だから重い」と決まっているわけではなく、誰がデザインを用意し、誰が権利処理を担う約束だったのかという事実関係によって、評価は大きく変わります。
「許諾があると思っていた」は事実の誤りか、法律の誤りか
この区別は実務上とても大切です。もし本人が、発注者がライセンスを受けていると信じており、そう信じるだけの具体的な根拠があったのであれば、それは事実の認識を欠いていたという話になり、故意そのものが否定される余地があります。これに対し、無断で他人の商標を使うことが違法だと知らなかったという主張であれば、それは法律の不知にとどまります。刑法38条3項は、法律を知らなかったとしても罪を犯す意思がなかったとすることはできないと定めており、ただし情状によって刑を減軽できるとしています。つまり、後者の主張は無罪の主張にはなりにくく、量刑の材料にとどまります。自分の弁解がどちらの性質のものかを、早い段階で弁護人と整理してください。
決め手になるのは発注者とのやりとりの履歴
許諾があると信じていたかどうかは、内心の問題ですから、記録によって裏づけるしかありません。実務で意味を持つのは次のようなものです。
- 発注書、見積書、取引基本契約書に、権利関係の保証条項があるか
- 発注者との連絡の履歴に、著作権や商標の許諾を確認したやりとりが残っているか
- 単価と数量が、正規のライセンス品の取引として不自然でないか
- 納品先が権利者や正規販売網とつながっているか、それとも匿名の個人か
- 過去に同種の注文を受けたときに、権利処理の資料が提供されていたか
逆に、口頭のやりとりだけで受注し、記録が何も残っていない場合、確認を怠ったという評価に傾きやすくなります。取引の性質上、記録が乏しいのが通常だという事情があるのであれば、それ自体を業界の実情として立証していくことになります。
在留資格と会社の存続への影響
報道からは在留資格が分かりませんが、貿易会社を経営している立場からは、経営・管理などの就労資格が考えられます。商標法違反は入管法24条4号チの薬物関係の罪にも、同4号の2の特定犯罪にも含まれませんので、罰金や執行猶予にとどまる限り、直ちに退去強制の対象になるわけではありません。しかし、経営者が長期に身柄を拘束されれば、事業は容易に止まります。入管法22条の4は、在留資格に応じた活動を継続して3か月以上行っていない場合を在留資格の取消事由としており、事業の停止は在留の基盤を直接に揺るがします。刑事の見通しと同時に、会社をどう維持するかを考える必要があります。
ご家族と会社が最初にすべきこと
まず、発注者とのやりとりが保存されている端末やクラウドの所在を確認し、消さずに保全してください。否認事件では、この記録が唯一の武器になります。次に、工場の在庫、受注の記録、納品先の一覧を整理してください。押収されていない資料の中に、有利な事情が眠っていることがあります。そして、従業員の雇用と取引先への説明について、弁護人と方針を決めてください。経営者が拘束されている間に取引が止まり、従業員が離職すると、たとえ刑事処分が軽く済んでも、在留の前提となる事業が残らないという結果になりかねません。
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舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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