「代購」で偽物を売ると、そのまま商標法違反になる
2026/09/01
中国から化粧品やバッグを取り寄せ、微信や小紅書で知人に売る。いわゆる「代購」は、在日中国人の方にとってごく身近な副業です。ところが、その商品がブランドの偽造品であった場合、扱った数がわずか数点であっても商標法違反として立件されます。この記事では、実際に報じられた事件を手がかりに、代購がどの時点で刑事事件に変わるのか、捜査で何が問われるのか、そして刑事処分が在留資格にどう跳ね返るのかを、ご本人とご家族に向けて順を追って整理します。
報じられた事件の概要
2022年9月11日、愛知県警の発表に基づく報道として、日本で就労していた中国籍の女性が商標法違反の疑いで逮捕されたと伝えられました。報道によれば、2022年3月以降、顧客4人に対して化粧品ブランドの偽造品6点、合計約105万円分を販売したという内容です。捜索では偽造バッグが100点を超えて発見され、過去の偽物販売の記録が2500件を超えていたことも判明したとされています。もっとも、これは逮捕の段階の報道です。疑いで逮捕されたと報じられているにとどまり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。以下は、この事件の結論を述べるものではなく、同じ構造を持つ事案一般の見方をお伝えするものです。
立件されたのは顧客4人・6点。それでも事件になる理由
商標法が守っているのは、ブランドの持ち主の信用と、その商標を目印にして買物をする消費者の信頼です。したがって、権利を侵害する行為が一つあれば、それだけで犯罪は成立します。「たった6点」「知人に頼まれて取り寄せただけ」という事情は、成立を否定する理由にはなりません。また、この罪は被害者の告訴がなくても捜査・起訴ができます。権利者が刑事処罰を望んでいないと述べたとしても、それだけで手続が止まるわけではないという点は、窃盗や暴行の感覚で考えている方が最初につまずくところです。さらに、実際に売った物だけでなく、売るために手元に置いていた在庫も処罰の対象になります。捜索で在庫が出てくると、事件は「6点の事件」では終わりません。
2500件超という記録が量刑に何をもたらすか
ここで区別しておかなければならないのが、起訴される事実(立件事実)と、刑を決めるときに考慮される事情(量刑事情)です。取引記録が2500件を超えるという事実は、そのすべてが起訴されるわけではありません。しかし、販売が長期間にわたり反復されていたこと、相当な利益が上がっていたこと、仕入先や発送を含む役割分担があったことは、常習性や組織性の評価として量刑に強く働きます。参考になるのは、模倣品対策団体ユニオン・デ・ファブリカンの事件簿として2025年2月5日に掲載された事案です。中国籍の女性がフリマアプリで偽ポシェット等3点を販売したとして逮捕され、捜索で1368点が押収されたところ、拘禁刑1年6月・執行猶予3年・罰金100万円、偽造品1368点の没収という結論になったと紹介されています。立件は3点でも、押収規模が結論を形づくっていることが読み取れます。
「本物だと思っていた」という弁解はどこまで通るか
代購の事件で最も多い言い分は、自分は偽物だと知らなかった、というものです。これは法律上まったく的外れな主張ではありません。偽造品であることの認識がなければ故意を欠くからです。ただし、捜査機関はその認識を、本人の供述ではなく周辺の事実から積み上げます。正規流通の価格と比べて仕入値が極端に安いこと、仕入先が正規代理店ではないこと、外箱や説明書の作りが粗いこと、購入者から真贋を疑う連絡が来ていたのにそのまま販売を続けたこと、鑑定書の類を一切確認していないこと。こうした事実が並ぶと、知らなかったという説明は通りにくくなります。逆に言えば、仕入時のやりとりや送金記録が残っていれば、それは自分の認識を説明する最良の材料になります。取調べで語る前に、まず記録を確保してください。
在留資格への影響
商標法違反は、出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号チが挙げる薬物関係の罪ではありませんし、別表第一の在留資格者に限って適用される4号の2の特定犯罪にも入っていません。したがって、罰金や執行猶予にとどまる限り、それだけで直ちに退去強制事由になるわけではありません。分水嶺は4号リ、すなわち1年を超える拘禁刑の実刑に処せられたかどうかです。出入国管理統計第57表によれば、令和7年に退去強制令書が発付された7722人のうち、4号リのみを理由とするものは全国で41人(うち中国籍11人)で、不法残留による5778人と比べれば少数です。ただし安心はできません。執行猶予でも、在留期間の更新や在留資格の変更の審査では素行が正面から問われます。就労資格の方が代購で継続的に収入を得ていた場合には、資格外活動の問題も同時に立ちます。
ご家族が今日できること
ご本人が逮捕されると、通常は72時間以内に勾留するかどうかが決まり、勾留は原則10日、延長を含めて最大20日続きます。この間にご家族ができることは具体的にあります。第一に、微信やアプリのやりとり、仕入先への送金記録を消さないこと。消してしまうと証拠隠滅を疑われ、勾留や保釈の判断で決定的に不利になります。第二に、押収品目録交付書を保管し、何がどれだけ押収されたかを弁護人に渡すこと。第三に、顧客への返金や権利者側への対応に充てられる資金の見通しを立てること。第四に、在留カードと旅券の所在を確認し、在留期限を書き出しておくこと。第五に、勤務先や学校への説明をいつ、誰が行うかを弁護人と相談してから決めることです。順序を誤ると、刑事事件が片付く前に在留資格の土台が崩れます。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
お問い合わせ:舟渡国際法律事務所(東京)/微信ID matsumura1119
この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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