在留資格を持って働いている人がサイバー事件を起こしたら、何が先に崩れるか
2026/09/01
技術・人文知識・国際業務や経営・管理の在留資格で日本に暮らし、会社員や会社役員として働いている方が、不正アクセスや電子計算機使用詐欺の被疑者になったとき、ご本人もご家族も刑の重さばかりを気にされます。しかし実務で先に崩れるのは、多くの場合、刑ではなく身分のほうです。勤務先を離れた瞬間から、在留資格の土台である「活動」が失われていくからです。この記事では、その順序と、どこで手を打てるのかを説明します。
刑事処分より先に、在留資格のほうが揺らぎます
就労系の在留資格は、日本での活動の中身に結びついています。会社に勤めていること、その業務が資格の範囲に収まっていることが前提です。ところが、逮捕されて身柄拘束が続けば、出勤できない期間が生じ、就業規則にもとづく休職や解雇の話が出てきます。会社を離れれば、活動が止まります。刑事裁判の結論が出るのは数か月から一年以上先ですが、在留資格の問題はその前に動き出します。ここを見落として刑事弁護だけを進めると、無罪や不起訴を得ても帰る場所がないという事態になりかねません。
報道された事件から見える身分の問題
ゲーム内通貨の詐取が問題となった事件では、東京都内に住む中国籍の30代の会社員の男性が、正規価格の20分の1で入手できると称して依頼者からアカウント情報を受け取り、不正に取得させたとして摘発され、被疑者による詐取額は少なくとも約3,500万円と報じられました(時事通信 2024年8月8日報道)。ポイントサービスの不正交換の事件では、千葉県内に住む中国籍の男性がグループのまとめ役とみられるとして摘発され、被害額は約8,000万円相当、関連事件で既に6人が逮捕・起訴されていると報じられています(サイバーセキュリティ・com 2023年9月22日報道)。いずれも報道の時点では有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。会社員、会社役員という肩書が報じられている点に注目してください。その肩書こそが在留資格の根拠です。
三か月ルール——活動をしていない期間が問題になる
入管法(出入国管理及び難民認定法)は、在留資格に応じた活動を継続して三か月以上行っていないことを、在留資格の取消事由の一つとしています。正当な理由がある場合は除かれますが、退職や解雇のあと再就職の見込みが立たない状態が続けば、この規定が現実味を帯びます。令和7年の在留資格取消しは総数1,446件で過去最高となり、そのうちこの活動の停止を理由とするものが350件(24・2%)でした。中国籍は全体で66件です(出入国在留管理庁の在留資格取消し統計)。数としては多くありませんが、就労資格の方にとっては現実のリスクです。
勤務先にいつ、どこまで説明するか
ご家族が最も迷われるのがこの点です。黙っていれば分からないと考えて連絡を絶つと、無断欠勤として解雇の理由を与えてしまいます。弁護人と相談したうえで、事実関係を過不足なく伝え、休職の扱いにできないかを打診したほうが、結果として身分を保てることがあります。会社としても、報道で知るより先に本人側から説明を受けたほうが対応しやすいのが実情です。説明の時期は、勾留の見通し、報道の有無、業務への影響の大きさを見て決めます。ここは刑事弁護と労務対応が交差する場面で、弁護人が同席して説明することもあります。
更新・変更の審査では、素行が見られます
在留期間の更新や在留資格の変更は、権利として認められているものではなく、審査を経て許否が判断されます。その際、素行が善良であることが考慮されます。退去強制事由に当たらない処分、たとえば罰金や執行猶予であっても、更新の場面では別途評価されます。したがって、刑事事件では不起訴や執行猶予を目指すと同時に、更新に向けて、就労を継続していること、税や社会保険を納めていること、再発防止のために何をしているかを、書面の形で残しておくことが有効です。
会社役員の場合は、事業の実体が問われます
経営・管理の在留資格で会社を経営している方の場合、問題は本人の刑事処分にとどまりません。事業所の実在、事業の継続性、取引の適正さが審査の対象ですから、事件をきっかけに口座が凍結されたり取引先を失ったりすると、事業実体そのものが疑われます。役員が身柄拘束されている間に会社の実務を誰が回すのか、決算や納税をどうするのかを、早い段階で決めておく必要があります。会社の帳簿と契約書を保全しておくことは、刑事の防御にも、在留の維持にも役立ちます。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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