転売した商品や受け取った利益は、没収・追徴の対象になるのか
2026/09/01
不正に入手したアカウントで商品を購入し、それを転売して現金を得たという類型の事件では、刑の重さと同じくらい、お金と物の行方が問題になります。「もう売ってしまった商品はどうなるのか」「受け取った報酬は返さなければならないのか」「買い取った業者や、事情を知らない購入者にまで話が及ぶのか」。この記事は、中国籍の方がこの類型で捜査を受けているご家族に向けて、没収と追徴という二つの制度の違いと、実務での扱いを説明します。
没収と追徴は、別の制度です
没収は、犯罪に関係する物そのものを国が取り上げる処分です。犯行に使った道具、犯罪によって得た物などが対象になります。これに対し追徴は、その物がすでに手元にないときに、それに相当する金額を国が取り立てる処分です。転売してしまった、使ってしまった、他人に渡してしまったという場合に問題になるのは追徴のほうです。いずれも刑の一種として判決の主文に書かれ、執行猶予が付いた場合でも、没収と追徴は現実に執行されます。ここは誤解が多いところで、「執行猶予だから何も払わなくてよい」ということにはなりません。
報道された事件で、規模の大きさが示されています
他人のクレジットカード情報を通販サイトの決済画面に入力して腕時計や家電などを購入し、荷受け役の自宅に配送させて売却したとされる事件では、中国籍の男女6人から7人が摘発され、転売額は約3億7,200万円以上と報じられました(読売新聞・テレビ愛知・中日新聞・CBC・静岡朝日テレビ 2026年5月から6月にかけての各報道)。また、フィッシングなどで入手した認証情報で他人名義の通販口座から端末を注文して詐取したとされる事件では、中国籍の40代の女性ほか計4人が摘発され、東京都内の一室が集積・発送の拠点とされ、商品は中国へ送られていたと報じられています(YTS山形テレビ・TBS NEWS DIG 2026年6月29日・30日報道)。いずれも逮捕・送致の段階の報道であり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
だまし取った商品は、まず被害者に返すべき物です
詐取された商品は、そもそも被害を受けた事業者や個人に返還されるべき物です。捜査段階で押収されていれば、被害者からの還付請求によって返還されるのが通常で、この場合は没収の問題になりません。ここが重要なところで、商品を隠したり、急いで処分したりする行為は、被害回復を妨げるものとして量刑上きわめて不利に働きます。逆に、手元に残っている商品を任意に提出し、被害者への返還に協力したという事実は、被害の一部が現実に回復したという形で、示談交渉と量刑の双方に効いてきます。
第三者に渡った物と、すでに使ってしまった利益
転売先の業者や購入者が、盗品や詐取品であることを知らずに買い受けていた場合、その物を国が取り上げることには慎重な扱いがされます。事情を知らない第三者の権利を害することになるからです。もっとも、盗品や詐取品であることを知りながら安く買い受けた業者は、それ自体が別の犯罪として立件されることがあります。他方、転売で得た現金をすでに生活費や送金に使ってしまった場合は、物としての没収ができませんから、犯罪によって得た利益に相当する額の追徴が問題になります。組織的な形態で行われた事案では、犯罪収益を剥奪する仕組みが用いられ、報酬として受け取った分が追徴の対象と主張されることがあります。
弁護人が争うのは、利益の帰属と範囲です
この類型では、荷受けや発送だけを担当した人が、グループ全体の売上を前提に追徴を求められることがあります。しかし、追徴されるべきは、その人が現実に取得した利益に限られるのが基本です。指示役に大半が渡り、本人の手元には数万円の報酬しか残っていないのであれば、そのことを口座の入出金、通信の記録、他の関係者の供述から具体的に示していく必要があります。全体の転売額と、本人の取得額を意識的に切り分ける主張は、追徴の額だけでなく、犯情の評価そのものを変えます。
在留資格への影響と、ご家族の準備
没収・追徴そのものが在留資格を失わせるわけではありません。退去強制事由として問題になるのは、無期又は1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた場合であり、全部執行猶予は除外されています。ただし、追徴金を納められない場合の負担や、被害弁償の原資が追徴に回ってしまう関係で、示談の可能性が狭まることがあります。ご家族としては、手元に残っている商品や現金を保全し、勝手に処分しないこと、預金や送金の記録を整理しておくことが、そのまま防御の材料になります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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