決済不正の被害額は三つの数え方がある。量刑に使われるのはどれか
2026/09/01
決済サービスやポイントの不正利用の事件では、報道に出てくる被害額と、起訴状に書かれる被害額と、捜査機関が会見で示す被害額が、それぞれ違うことがあります。ご家族からは「新聞には2,300万円と書いてあるのに、弁護人は20万円の事件だと言う。どちらが本当なのか」というご質問をよく受けます。この記事では、この類型の被害額に三つの数え方があること、そのうち量刑を左右するのはどれか、そして認定される額を絞ることがなぜ在留資格の帰趨にまで関わるのかを説明します。
被害額には三つの顔があります
第一が立件額です。被害者と日時と商品が特定され、証拠によって裏づけられ、起訴状の訴因として書かれた金額を指します。第二が押収データ換算額です。押収されたアカウント情報や取引履歴から、理論上こうなり得ると算出した金額で、捜査段階の説明や報道でよく使われます。第三が全体推計額です。被害を受けた事業者が、システム全体で確認された不正利用の総額として公表するもので、複数のグループの犯行が混ざっていることも珍しくありません。この三つは性質がまったく異なるのに、報道では同じ「被害額」という言葉で並びます。
報道された事件で、その差はどう表れたか
ポイントの不正使用の事件では、中国籍の30代の男性3人が摘発され、立件分は約300点・約20万円相当、余罪を含めると約1,700点と報じられました(読売新聞・朝日新聞 2022年4月28日報道)。決済アプリの不正使用の事件では、中国籍の女性2人について、約5か月間で約2,300万円という数字が報じられています(読売新聞・朝日新聞 2022年5月26日報道)。バーコード決済の不正利用では、中国籍の男女6人が他人名義の決済画面を提示してゲーム機を購入したとして起訴されたと報じられました(読売新聞 2025年8月4日報道)。起訴済みと報じられたものを除き、これらは逮捕・送致段階の報道であり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
量刑に使われるのは、原則として立件額です
裁判所が刑を決めるときの出発点は、起訴された訴因に書かれた事実です。起訴されていない事実を、それ自体として処罰することはできません。捜査機関が会見で述べた総額や、押収データから逆算した金額は、そのままでは判決の基礎になりません。もっとも、常習性・組織性・利益の規模といった情状の評価を通じて、周辺の事実が量刑に影を落とすことはあります。だからこそ弁護人は、立件額を確定させることと同時に、余罪的な事実がどこまで証拠上確からしいのかを検証し、根拠の薄い数字が情状として一人歩きしないように押し戻していきます。
ポイントや電子的な利益は、額面と時価が違う
ポイントやゲーム内通貨のように形のない利益では、被害額をどう評価するかがそれ自体争点になります。付与された額面で見るのか、それを使って購入された商品の小売価格で見るのか、あるいは事業者が実際に失った利益で見るのかによって、金額は大きく変わります。実務ではポイントの財産的価値そのものは肯定されていますが、評価の基準は事案ごとに争う余地があります。また、同じアカウントに対する反復利用を一つの罪と見るか、個別の罪の集まりと見るかという罪数の整理も、量刑の見え方を変えます。一つにまとめたほうが有利に見えて、実は全体を大きな一個の犯行として評価されてしまうこともあり、この選択は戦略的に行う必要があります。
認定額が在留資格に跳ね返る
入管法(出入国管理及び難民認定法)は、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としていますが、全部執行猶予が付いた場合は除外されます。被害額の認定は、実刑か執行猶予かを分ける最大の要素の一つですから、金額を絞る作業はそのまま在留を守る作業でもあります。令和6年の被告人通訳事件では、全部執行猶予率は全罪名で85・3%、入管法違反を除くと74・8%でした(法務省『令和7年版 犯罪白書』)。数字だけを見て楽観するべきではありませんが、認定される事実の幅によって結論が動く領域であることは確かです。
ご家族が今日できること
被害弁償の原資をどこまで用意できるかを、早い段階で見積もってください。認定額が絞られれば、弁償できる範囲も現実的になります。購入された商品が手元に残っている場合は、勝手に処分せず、弁護人を通じて返還の申し出をするほうが有利に働きます。また、報道された総額をそのまま前提に親族から借金をするのは危険です。まず立件されている事実を確認してから、資金計画を立ててください。
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舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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