4人でネット銀行に不正接続し約200万円。役割はどこで分かれるのか
2026/09/01
複数人が同時に逮捕される事件では、ご家族はまず「うちの子は何をしたのか」を知りたいと思われます。ところが捜査機関の説明は、しばしばグループ全体の被害額から始まります。四人で二百万円、という語られ方をすると、一人あたりの責任も均等であるかのように聞こえます。しかし実際には、どの段階から加わったのかによって、責任の範囲は大きく変わります。この記事では、不正送金の事件を四つの段階に分けて、その分かれ目を説明します。
報道されている事案:四人で約200万円
日本経済新聞は2016年12月1日、埼玉県川口市に住む中国籍の20代の男4人が、インターネット専業銀行のシステムに不正に接続し、約200万円を詐取したとして、電子計算機使用詐欺などの疑いで逮捕されたと報じました。捜査は警視庁の組織犯罪を担当する部門が行ったとされています。これは逮捕の段階の報道であり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
四つの段階に分けて考える
この類型の事件は、法的には次の四つに分解できます。
- 情報の入手。フィッシングや名簿の購入により、他人の識別符号を手に入れる段階です。入手しただけでは財産犯は成立しませんが、不正に取得された識別符号を保管する行為自体を処罰する規定があります。
- システムへの接続。他人の識別符号を無断で入力して銀行のシステムを利用できる状態にする段階で、不正アクセス禁止法違反として評価されます。
- 送金の指示。コンピュータに虚偽の情報を与えて残高を移す段階で、刑法246条の2の電子計算機使用詐欺にあたります。
- 現金化。送金先の口座から他人名義のカードで現金を引き出す段階で、金融機関に対する窃盗として構成されるのが通例です。
四人が逮捕されたからといって、四人全員がこの四段階すべてに関与しているとは限りません。むしろ、それぞれが一つか二つの作業しか知らされていないことのほうが多いのが実情です。
「どの段階から加わったか」が責任の範囲を決める
共犯として処罰されるためには、他の関与者との間に、犯罪の実現についての合意があったことが要ります。この合意がいつ成立したかによって、責任の及ぶ範囲が変わります。現金化の段階で初めて誘われた人が、それ以前に行われた情報の入手や接続まで当然に負うわけではありません。
ただし、途中から加わった者の責任が常に軽く扱われるわけではないことにも注意が要ります。最高裁判所平成29年12月11日決定は、詐欺の実行が始まった後に受け子として加わった者にも承継的共同正犯の成立を認めました。加わった時点で、既に進行している計画の全体像をどこまで認識していたかが問われます。
そこで弁護人は、勧誘の経路と時期、報酬の決め方、渡された道具(カード、端末、口座)の内容、他の関与者との連絡の頻度といった客観的な事情を集めます。被害額に連動しない少額の固定報酬で、一つの作業しか任されていなかったのであれば、それは合意の範囲が限られていたことを示す事情になります。
複数人が同時に逮捕されたときに起きること
共犯者がいる事件では、裁判官が接見等禁止の決定を出すことが多く、ご家族の面会や手紙が止まります。弁護人との接見だけは制限されませんから、外の情報を伝える通路は弁護人だけになります。
また、共犯者どうしの供述が食い違うと、捜査は自然と「誰が主導したか」に焦点を移します。ここで起きやすいのが、互いに責任を押し付け合う引き込みです。取調べで他人の関与を詳しく語ることが、自分の立場を良くするとは限りません。むしろ、自分が知らなかった範囲まで知っていたかのような供述が調書に残り、後で撤回できなくなることがあります。話す範囲を弁護人と決めてから臨むことが大切です。
在留資格への影響
被害額が大きく、共犯者が多い事件では、実刑となる可能性が現実的なものになります。入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由とし、全部執行猶予は但書で除かれます。したがって、実刑を避けられるかどうか、避けられないとして刑期が1年以下にとどまるかどうかが分岐点です。令和7年の統計では、この号のみによる退去強制令書の発付は全国で41人ですが、中国籍については単独11人に不法残留との並立36人を加えて計47人であり、中国籍の発付総数686人に占める比率は約6.9%で、ベトナムの約2.3%より高くなっています(出入国管理統計第57表)。
ご家族が最初にすべきこと
ご家族には、事件の全体像より先に、本人が具体的に何をしたのかを弁護人と確認していただきたいと思います。役割の切り分けは、量刑にも在留にも直結します。
そのうえで、勧誘に使われたアプリの履歴、報酬の入金記録、渡された道具の保管状況を保全してください。削除は不利にしか働きません。あわせて在留カードと旅券の所在を確認し、身元引受人になれる方を探し、被害弁償の原資を検討します。接見禁止が付いていても、弁護人を通じて差し入れや連絡の一部は可能です。孤立させないことが、本人の供述を安定させる最も現実的な支えになります。
中文版:4人非法连入网络银行转走约200万日元:角色如何区分
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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