認証情報をだまし取って口座から50万円。電子計算機使用詐欺という罪の骨格
2026/09/01
「人をだましていないのに、なぜ詐欺なのか」。この疑問は、不正送金の事件で身柄を拘束された方のご家族から、繰り返し寄せられます。日本の刑法には、人を欺く詐欺罪とは別に、コンピュータを相手にした財産移転を処罰する規定があります。この記事では、金融機関を装ったメールで認証情報を取得し、他人の口座から送金する類型を素材に、その罪の骨格、不正アクセス罪との関係、被害回復の可否、そして在留資格への影響を順に説明します。
報道されている事案:メールで取った認証情報と、約50万円
NHKの東海地方向けのニュースサイトは2019年11月27日、金融機関を装ったメールで認証情報をだまし取り、山口県に住む60代男性の口座に不正にアクセスして送金したとして、中国籍の1人が電子計算機使用詐欺と不正アクセス禁止法違反の疑いで摘発されたと報じました。報道によれば、送金された額は約50万円とされています。これは有罪が確定した事案として報じられたものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。以下では、この報道を素材に、制度の骨格を一般的に説明します。
電子計算機使用詐欺とは何か。詐欺罪との違い
刑法246条の2は、電子計算機使用詐欺を定めています。人を欺く通常の詐欺罪は、欺かれた人が判断を誤り、自分の意思で財物を渡すという流れを前提にします。ところが銀行のオンラインシステムでは、誰も判断していません。正しい識別符号が入力されれば、機械は淡々と残高を書き換えます。そこで、コンピュータに虚偽の情報や不正な指令を与えて、財産上の利益を得る行為を、別の条文で処罰することにしたわけです。
この違いは、実務上いくつかの帰結を生みます。第一に、被害者が「だまされた」という認識を持っていないため、被害の申告が遅れ、発覚が金融機関からの連絡によることが多い。第二に、行為の完成時期が、送金の記録が作られた瞬間として明確に定まる。第三に、現金を引き出す行為は別の罪として構成されるのが通例です。ATMから他人名義のカードで引き出せば、金融機関の占有する現金を奪ったものとして窃盗になります。
不正アクセス禁止法違反との関係
認証情報を無断で入力して口座にログインした部分は、不正アクセス禁止法違反として別に評価されます。したがって、この類型では通常、不正アクセス禁止法違反と電子計算機使用詐欺の二つが並びます。両者は目的と手段の関係にあるようにも見えますが、実務では別個の罪として扱われるのが通例で、量刑の判断もそれを前提に行われます。
弁護の観点からは、この二つを分けて考えることに意味があります。ログインした事実は認められるが、送金の指示は別の人物が行ったという事案もあれば、逆に、送られてきた情報を渡しただけで自分は接続していないという事案もあります。誰が、どの端末から、いつ接続したのかは、通信の記録によって相当程度まで確認できます。捜査段階で全体を包括的に認めてしまうと、後にこの切り分けを主張しても信用されにくくなります。
被害の回復はできるのか
被害者にとっては、失われた預金が戻るかどうかが最大の関心事です。不正な送金先の口座が判明した場合、金融機関がその口座を凍結し、残っている資金を被害者へ分配するための手続がとられることがあります。もっとも、送金された金がただちに引き出されている類型では、凍結が間に合わないことも多いのが実情です。
被疑者側から見た場合、被害弁償と示談は、処分を軽くするための最も現実的な手段です。約50万円という規模は、ご家族が原資を用意できれば弁償が可能な水準にあります。ただし、金融機関が被害者となる部分と、預金者が被害者となる部分の切り分けを誤ると、弁償の申出が空振りになります。誰にいくら弁償するのかは、認定される被害の構造を確認したうえで決める必要があります。
在留資格への影響
入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、全部執行猶予は但書により除かれます。50万円という被害額で、弁償が済み、役割が従属的であれば、執行猶予を目指すことは十分に現実的です。令和7年の統計では、この号のみを理由とする退去強制令書の発付は全国で41人(うち中国籍11人)にとどまります(出入国管理統計第57表)。
他方、執行猶予を得ても在留期間の更新は別の問題です。更新の審査では素行が善良であることが求められ、財産犯の有罪判決は不利に働きます。就労資格の場合は勤務先が在籍を維持してくれるか、留学の場合は学籍が残るかが、更新の可否を実際に左右します。刑事事件の終わりは、入管手続の始まりだと考えてください。
ご家族が最初にすべきこと
まず、本人の口座やアカウントの記録を保全してください。消してしまうと、関与の範囲が狭いことを示す資料まで失われます。次に、弁償の原資について現実的な見通しを立ててください。金額の目処が立てば、弁護人は早い段階から交渉に入れます。
あわせて、在留カードと旅券の所在、在留期限、勤務先や学校への説明の時期を整理しておきます。取調べは通訳を介して行われますから、「送金した」「渡した」「預かった」といった動詞の訳し分けが、そのまま責任の重さの評価に直結します。中国語に対応できる弁護人が早期に接見し、供述の内容を本人と確認できる体制を作ることが、この類型では特に大切です。
中文版:骗取认证信息从账户转走50万日元:使用电子计算机诈欺的骨架
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舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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