不在通知を装うSMS。送信役と出金役は、なぜ別々に裁かれるのか
2026/09/01
宅配便の不在通知を装ったショートメッセージから始まる事件は、一つの犯罪のように見えて、実際には複数の人間が別々の作業を分担して成り立っています。メッセージを送る人、偽のサイトを用意する人、集まった認証情報で銀行に接続する人、送金された金を引き出す人。逮捕されるのは、たいてい末端の一人か二人です。この記事では、役割分担型の事件で、担当していない部分の被害まで負わされないためにどこを争うのかを説明します。
報道されている事案:三十分以内に消えた四十二万円
情報セキュリティの専門サイト「サイバーセキュリティ.com」は2020年10月16日、福岡県において、宅配便の不在通知を装ったURL付きのショートメッセージで偽のサイトへ誘導し、そこに入力させたIDやパスワードを使って銀行口座に不正にログインしたとして、中国籍の男性1人が摘発されたと報じました。報道によれば、被害額は約42万円で、情報が入力されてから被害が生じるまでは30分以内だったとされています。これは有罪が確定した事案として報じられたものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
一つの詐欺が、なぜ複数の罪名に分かれるのか
この類型の行為は、法律上いくつかの段階に切り分けられます。他人の識別符号を無断で入力して銀行のシステムを利用できる状態にした部分は、不正アクセス禁止法違反として評価されます。人を欺かずに、コンピュータに虚偽の情報を与えて預金残高という財産上の利益を移転させた部分は、刑法246条の2の電子計算機使用詐欺として評価されます。移された金を他人名義のカードで現金化した部分は、金融機関に対する窃盗として構成されるのが通例です。
行為者から見れば「一つの仕事」でも、法律から見れば別々の犯罪です。そして、この切り分けがあるからこそ、誰がどこまで責任を負うのかという問題が生じます。
担当していない部分まで負わされないための争い方
共犯の責任範囲は、その人が誰と、いつ、どこまでの内容について合意していたかによって決まります。これを共謀の射程と呼びます。出金役として途中から加わった人が、送信役の行った数千通のメッセージ送信や、他の被害者に生じた損害まで当然に負うわけではありません。
もっとも、この点は自動的に有利に働くわけではありません。最高裁判所平成29年12月11日決定は、いわゆるだまされたふり作戦が開始された後に受け子として加わった者にも詐欺未遂の承継的共同正犯が成立するとしました。途中から加わった者の責任を狭く考える立場が、そのまま通るわけではないのです。
そこで実務では、次のような客観的な資料を積み上げます。指示が届いた日時と経路(どのアプリで、いつ誘われたか)、報酬の額と支払方法(歩合か固定か、被害額に連動していたか)、担当した回数と場所、他の役割の人物との接触の有無。これらが、合意の内容がどこまで及んでいたかを示す証拠になります。とりわけ、被害額に連動しない少額の固定報酬であったことは、全体の計画を共有していなかったことをうかがわせる事情として意味を持ちます。
被害弁償は誰に、いくら行うのか
この類型で不起訴や執行猶予を目指すとき、被害弁償は避けて通れません。難しいのは、被害者が金融機関なのか預金者なのか、そして自分が担当した部分に対応する被害額がいくらなのか、という点です。約42万円という規模であれば、原資の準備ができる方であれば弁償の現実味があります。弁償の申出をする際には、認定される被害の範囲を先に固めたうえで行わないと、争っていない部分まで自認したと受け取られる危険があります。順序を誤らないことが大切です。
在留資格への影響
入管法24条4号リによる退去強制事由は、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた場合であり、全部執行猶予の場合は但書で除かれます。役割が従属的で、被害額が限定され、弁償が済んでいれば、執行猶予を目指す余地は十分にあります。令和6年の統計では、被告人に通訳が付いた通常第一審の有罪人員のうち、全部執行猶予の割合は全罪名で85.3%、入管法違反を除くと74.8%でした(法務省・令和7年版犯罪白書)。
ただし、執行猶予であっても在留期間の更新が当然に認められるわけではありません。更新は別の判断枠組みで行われ、素行が善良であることが求められます。刑事の処分をできるだけ軽くしておくことが、その後の入管手続の土台になります。
ご家族が最初にすべきこと
本人が「荷物を受け取るだけ」「お金を下ろすだけ」と説明していたとしても、それが刑事事件になっている以上、軽い話ではありません。まず、勧誘されたときのやり取りを保存してください。報酬の振込記録、指示のあったアプリの履歴、待ち合わせ場所の記録。これらは本人に不利な証拠に見えて、実際には従属的な立場を示す最良の資料になります。
次に、被害弁償の原資を検討します。ご家族が用意できる金額の見通しを早い段階で弁護人に伝えておくと、示談交渉の設計が変わります。あわせて、在留カードと旅券の所在を確認し、勤務先や学校への説明の時期を決めてください。取調べは通訳を介しますから、役割の説明が正確に訳されているかを弁護人と確認する体制を早く作ることが、この類型では特に効きます。
中文版:伪装成快递未送达通知的短信:发送方与取款方为何分别受审
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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