舟渡国際法律事務所

120万回のアクセスを試みたと報じられても、成功件数と被害額は別の問題です

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120万回のアクセスを試みたと報じられても、成功件数と被害額は別の問題です

120万回のアクセスを試みたと報じられても、成功件数と被害額は別の問題です

2026/09/01

不正アクセスの事件が報道されると、まず目に飛び込んでくるのは大きな数字です。試みたアクセスが何十万回、押収されたID情報が何百万件。ご家族はその数字を見て、取り返しのつかないことになったと感じます。しかし刑事手続で問われるのは、報道された数字そのものではありません。試みた回数と、実際に成功した件数と、財産的な被害が生じた件数は、それぞれ別の事実です。この記事では、その区別がなぜ防御の出発点になるのかを説明します。

報道されている事案:120万回という数字

読売新聞およびTBS系は2017年11月13日、中国籍の20代の男が、2016年12月から2017年9月にかけて、知人から受け取った不正に取得されたIDとパスワードを保管し、共犯者と共謀して大手の通信販売サイトへ120万回以上の不正アクセスを試みたとして、不正アクセス禁止法違反などの疑いで再逮捕されたと報じました。報道では、関係するID情報は約274万件に上るとされています。これは逮捕の段階の報道であり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。

不正アクセス禁止法は「試みたこと」をどう扱うのか

不正アクセス禁止法は、他人の識別符号を無断で入力して、本来はアクセスできない状態のコンピュータを利用できる状態にする行為を禁じています。ここで大切なのは、処罰の対象になるのが原則として「アクセスに成功した行為」だという点です。手元のリストを次々に入力してみたが、そのほとんどが弾かれて認証に至らなかったのであれば、その部分は不正アクセス行為として完成していません。

いわゆるリスト型攻撃では、機械が自動的に大量の組み合わせを送り続けます。120万回という数字は、送信した回数の集計であって、突破できた回数ではありません。捜査機関はサーバの記録から試行の総数を把握できますが、そこから成功した件数を切り分ける作業は別に必要になります。

数字の大きさと起訴事実は別物。訴因の特定を求めることが防御の起点

日本の刑事裁判で被告人が向き合うのは、報道された事件の全体像ではなく、検察官が起訴状に書いた具体的な事実です。いつ、どのIDで、どのサーバに、何回接続したのか。財産的な被害が問われるのであれば、誰の、どの取引で、いくらの損害が生じたのか。これらが特定されていなければ、被告人は何に対して弁解すればよいのかが分かりません。

弁護人がまず行うのは、この特定を厳格に求めることです。押収されたデータが274万件あるという事実と、起訴された事実が何件であるかは、まったく別の話です。捜査段階で「これだけの件数がある」と示されて動揺し、身に覚えのない範囲まで認めてしまうと、後から取り返すのが難しくなります。取調べで数字を示されたときこそ、その数字が何を数えたものなのかを確認する必要があります。

押収データの量と、認定される被害額の乖離

この類型では、押収された情報の量と、実際に立件される被害額とが大きく食い違うのが通例です。同じ分野で、押収されたID・パスワードが約290万件に上る一方、個別に立件された商品の購入額は約60万円分にとどまったと報じられた事件もあります。情報を持っていたこと自体と、それを使って財産を得たこととは、法的にまったく別の評価を受けます。

量刑の場面でも、この区別は決定的です。裁判所が量刑の基礎にできるのは、証拠によって認定された事実だけです。余罪として捜査されているにすぎない部分を量刑の資料にすることには限界があります。したがって弁護人は、認定される被害の範囲を証拠に即して絞り込み、そのうえで被害弁償の可能性を検討していきます。

在留資格への影響と、数字が独り歩きすることの怖さ

在留の帰趨を決めるのは、報道の見出しではなく、確定した刑です。入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、全部執行猶予の場合は但書により除かれます。したがって、実刑となるかどうか、実刑となるとして刑期が1年を超えるかどうかが分かれ目になります。令和7年の統計では、この号のみを理由とする退去強制令書の発付は全国で41人でした(出入国管理統計第57表)。

他方で、勾留と再逮捕が繰り返されて身柄拘束が長期化すると、勤務先の在籍や学校の在籍が維持できなくなります。この類型では身柄拘束が1年近くに及んだ例も報じられています。刑そのものより先に、在留資格の基礎となる活動が失われることのほうが早いのです。だからこそ、勾留に対する準抗告や、再逮捕の必要性を争う活動が、入管手続の前哨戦になります。

ご家族が最初にすべきこと

まず、報道の数字をそのまま本人の責任の大きさだと受け取らないでください。ご家族が動揺して「もう認めて早く終わらせなさい」と伝えてしまうことが、実務では最も惜しまれます。

次に、本人が使っていた端末やアカウントの情報を、ご家族が勝手に消したり初期化したりしないでください。証拠隠滅と受け取られる危険があり、勾留や保釈の判断に直接響きます。

そのうえで、在留カードと旅券の所在、勤務先や学校への連絡の時期、差し入れと身元引受の準備を進めます。中国語での取調べは通訳を介して行われますから、専門用語の訳し方一つで供述の意味が変わります。早い段階で中国語に対応できる弁護人が接見に入り、調書の内容を本人と一緒に確認できる体制を作ることが、この類型では特に重要です。

中文版:即使被报道尝试访问120万次,成功件数与实际被害仍是两回事

中国語対応の刑事弁護のご相談

舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。

お問い合わせ:舟渡国際法律事務所(東京)/微信ID matsumura1119

この記事を書いた弁護士

松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。

本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。

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