ゲーム内通貨を詐取したとき、形のない利益はいくらと評価されるのか
2026/09/01
ゲームの中で使われる通貨やアイテムは、手に取ることができません。それでも、正規の値段より格段に安く手に入れられるという誘いに乗って、他人にアカウント情報を渡した人も、その情報を使って通貨を取得した人も、刑事事件の当事者になり得ます。そのとき最大の争点になるのが、形のない利益をいくらと評価するのかという問題です。この記事では、報じられた事案を素材に、評価の基準、会社全体の被害額と本人の詐取額の区別、そして弁償と在留の考え方を説明します。
報じられた事案の概要
時事通信が2024年8月8日に報じた事件では、東京都荒川区に住む中国籍の30代の男性会社員が、正規価格の20分の1でゲーム内通貨を入手できると称して依頼者からアカウント情報を受け取り、通貨を不正に取得させたとして摘発されたと報じられています。期間は2021年12月から2023年8月までとされ、罪名は電子計算機使用詐欺です。報道によれば、同社全体の被害は約1億3,000万円、この男性による詐取額は少なくとも約3,500万円とされました。被害者は愛知県内とされています。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
電子計算機使用詐欺という罪名の骨格
刑法246条の2は、人ではなく計算機を相手にした財産侵害を処罰する規定です。人を欺いて財物を交付させるのが詐欺であるのに対し、事務処理に使われる計算機に虚偽の情報や不正な指令を与えて、財産権の得喪・変更に関する不実の記録を作り、それによって財産上の不法な利益を得る場合に成立します。ゲーム内通貨は、運営会社のサーバー上の記録として管理されており、正規の課金なしにその残高を増やす操作は、まさにこの規定が想定する場面です。ここで得られるのは物ではなく「財産上の利益」ですから、評価の問題が必然的に生じます。
正規販売価格か、実際に受け取った対価か
被害額の算定には、大きく二つの考え方があり得ます。第一は、運営会社が定める正規の販売価格を基準とする考え方です。会社が本来受け取るはずだった対価を失ったのだから、その額が損害だという理解です。第二は、実際に授受された対価、すなわち依頼者が支払った金額を基準とする考え方です。報道された事案では正規価格の20分の1とされていますから、二つの基準の差は二十倍に達します。この差が量刑に与える影響は決して小さくありません。弁護人としては、運営会社が実際に被った経済的損失は何か、当該通貨がどのような条件で発行され、無償配布や返還がどの程度行われているのかを確認し、正規価格をそのまま損害と見ることの当否を争う余地があります。
会社全体の被害額と、本人の詐取額を区別させる
報道では、同社全体の被害が約1億3,000万円、本人によるものが少なくとも約3,500万円とされています。この二つを混同させないことが、防御の要になります。同種の手口が複数の者によって行われていた場合、会社が集計した全体の被害額には、本人と無関係な部分が含まれています。にもかかわらず、法廷で全体額が繰り返し語られれば、量刑の印象は全体額に引きずられます。弁護人は、起訴事実として特定された取得の一件ごとに、アカウント、日時、取得された通貨の量を確認し、本人に帰責できる範囲を数字で示します。あわせて、「少なくとも」という留保付きの数字が独り歩きしないよう、その根拠の開示を求めます。
被害弁償をどう設計するか
この類型の被害者は、通常、ゲームの運営会社です。アカウント情報を渡した依頼者は、規約違反によりアカウントを停止されるなどの不利益を受けている一方、事件の構造上は共犯として立件され得る立場でもあり、被害者として扱われるとは限りません。弁償の交渉は運営会社との間で行うことになりますが、会社によっては個別の示談に応じない方針を採ることがあります。その場合でも、算定された損害額に相当する金額を供託する、あるいは贖罪寄付を行うといった方法で、被害回復に向けた具体的な行動を示すことができます。重要なのは、金額の根拠と支払の事実を、法廷で確認できる書面の形で残しておくことです。
在留資格への影響とご家族ができること
電子計算機使用詐欺は、有罪判決だけで退去強制事由となる薬物事犯とは異なります。実務上の分岐は、無期又は1年を超える拘禁刑の実刑となるかどうかであり、出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号リは但書により全部執行猶予の場合を除いています。被害額が高く認定されるほど実刑に近づく以上、評価基準を争うことは在留を守ることに直結します。ご家族には、本人の収入と支出の記録、依頼者から受け取った対価の流れ、使用していた端末やアカウントの状況を整理していただくようお願いします。会社員として在留している場合は、勤務先との雇用関係が続いているかどうかが、その後の在留期間更新に大きく影響しますので、退職届の提出は弁護人と相談してから判断してください。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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