「リーダー格」とされたとき、実行役の供述をどう検証するか
2026/09/01
共犯事件では、しばしば「誰が指示していたか」が最大の争点になります。そして、その認定の中心に置かれるのが、先に捕まった実行役の供述です。実行役には、自分の刑を軽くしたいという動機がありますから、供述が上位者へ向かうことは構造的に起こりえます。この記事では、報じられたポイント不正交換の事件を素材に、「リーダー格」という評価がどのように形づくられるのか、そして弁護人が共犯者の供述をどう検証していくのかを説明します。
報じられた事案の概要
サイバーセキュリティ.comが2023年9月22日に報じた事件では、千葉県市川市に住む中国籍の男性1人が、他人のアカウント情報を入手し、実行役に対して不正アクセスとポイントの交換を指示したとして、警視庁に摘発されたと報じられています。報道では、この男性はグループのリーダー格とみられるとされ、被害額は約8,000万円相当、関連する事件では既に6人が逮捕・起訴されているとされました。罪名は詐欺です。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
「リーダー格」という評価は何で決まるのか
報道で使われる「リーダー格」という言葉は、法律上の概念ではありません。量刑の場面で意味を持つのは、犯行全体における役割の実質です。具体的には、計画を立案したか、参加者を集めたか、道具や情報を調達したか、指示を出す立場にあったか、利益の配分を決めていたか、離脱を許さない関係を作っていたか、といった事情の積み重ねです。逆にいえば、これらのうちどれか一つの事実が薄いことを示せれば、「リーダー格」という総体的な評価は崩れます。弁護活動は、この総体を一つずつ分解し、証拠の裏づけがある部分と、実行役の印象論にすぎない部分を分ける作業から始まります。
共犯者の供述に内在する危険
先に検挙された者が、自らの関与を小さく、他人の関与を大きく語ることは、古くから引き込みの危険として指摘されてきました。とりわけ、既に起訴された者が、自分の公判での情状を意識して供述するとき、その内容は上位者の存在を強調する方向へ傾きがちです。したがって弁護人は、まず利害関係を可視化します。誰が先に検挙され、誰が起訴され、誰がまだ処分未定なのか。処分の順序と供述の時期を並べると、供述が動いた時点と、その者の立場が変わった時点が重なることがあります。この一致は、供述の信用性を判断する重要な材料になります。
供述の変遷を追い、客観証拠と突き合わせる
次に、供述の中身を時系列で追います。最初の弁解、二回目以降の調書、検察官面前調書、そして公判での証言。この間に、指示者の特定、指示の方法、報酬の分配について記述が変わっていないかを確認します。変遷そのものが直ちに嘘を意味するわけではありませんが、変遷の理由が説明できないとき、その供述の重みは下がります。あわせて、客観証拠との突き合わせが不可欠です。通信アプリの履歴に、供述どおりの指示が残っているか。送金記録は、供述された分配比率と一致するか。アカウント情報の入手経路は、本人に結びついているか。供述が客観証拠に支えられていない部分を明確にすることが、弁護人の中心的な作業です。
取調べの録音・録画をどう使うか
取調べの状況が記録されている場合、それは供述の中身だけでなく、供述が生まれた過程を検証する材料になります。捜査官がどのような前提を置いて質問したか、誘導があったか、供述者が迷いを示した箇所はどこか。記録が存在するのであれば、弁護人はその開示を求め、内容を確認します。本人自身の取調べについても同様で、通訳を介した取調べでは、質問と回答の対応がずれることがあります。通訳の正確性に疑義があるときは、その点を具体的に指摘して調書の任意性・信用性を争います。中国語の通訳が入る事件では、法律用語の訳し方一つで供述の意味が変わることがあり、この検証は形式的なものではありません。
在留資格への影響とご家族ができること
指示役と評価されるかどうかは、量刑を通じて在留の帰趨に直結します。詐欺は、有罪判決だけで退去強制事由となる薬物事犯とは異なり、無期又は1年を超える拘禁刑の実刑となった場合に、出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号リの問題が生じます。同号の但書により、全部執行猶予の判決は除かれます。役割の評価が実刑と執行猶予の分かれ目に位置する以上、供述の検証は在留の問題そのものです。ご家族には、本人の日常の生活実態、収入の出所、交友関係について、事実に基づいた情報を弁護人に提供していただくことをお願いします。憶測で人物像を語ることは避け、確認できる事実だけを伝えてください。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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