偽サイトの出金役だけが捕まった。詐欺の共謀は本当に成立するのか
2026/09/01
「口座からお金を下ろすだけの仕事」と言われて引き受けた結果、詐欺グループの一員として摘発される。この構図は今も繰り返されています。運営者は海外にいて捕まらず、日本国内で現金を扱った人だけが手元に残る、という事件も少なくありません。この記事では、偽の通販サイトの代金を引き出した役割で摘発された事案を素材に、なぜ窃盗という罪名になるのか、詐欺の共謀はどこまで認められるのか、そして弁護人が何を集めて切り分けるのかを説明します。
報じられた事案の概要
朝日新聞が2022年11月4日に報じた事件では、格安のブランド品を販売するとうたう偽の通販サイトに誘われた利用者が振り込んだ代金を、現金自動預払機から引き出して盗んだとして、埼玉県和光市に住む中国籍の男性2人が警視庁に摘発されたと報じられています。適用された罪名は窃盗でした。サイトの運営者側については、報道からは摘発の有無が分かりません。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
なぜ「詐欺」ではなく「窃盗」なのか
意外に思われるかもしれませんが、他人名義の口座から現金を引き出す行為は、金融機関の意思に反して機械から現金を持ち去るものと評価され、窃盗として構成されるのが実務です。人をだましたわけではなく、機械から占有を奪ったという理解です。もっとも、捜査機関は、その現金がどこから来たかを遡り、サイト運営者による詐欺と結びつけて、詐欺の共犯として立件を試みることがあります。出金役として摘発された人にとって、窃盗一罪で終わるのか、詐欺の共犯まで問われるのかは、量刑にも被害額の認定にも決定的な差を生みます。
途中から加わった者に共謀は及ぶか
ここで問題になるのが、いわゆる承継的共同正犯の考え方です。犯行が始まった後に加わった者が、それ以前の行為やその結果についてまで責任を負うのかという論点です。この点について、最高裁判所平成29年12月11日決定は、いわゆるだまされたふり作戦が開始された後に加担した受け子についても、詐欺未遂の承継的共同正犯が成立するとしました。この判断は、途中から加わった者であっても、全体の計画を認識したうえでその一部を担った以上、共同正犯としての責任を免れないという方向を示すものです。したがって、「自分は下ろしただけだ」という説明は、それだけでは共謀の否定に足りません。争うべきは、本人がどこまで認識していたかという中身です。
切り分けの決め手になる事情
第一に、運営者との連絡の有無と内容です。指示が誰から、どのような媒体で、どの程度具体的に与えられていたのか。振込先の口座を用意したのは誰か。振込の予定を事前に知らされていたのか。これらは通信アプリの履歴に残っていることが多く、押収された端末の解析結果を弁護人が精査する必要があります。第二に、報酬体系です。引き出した金額に比例する歩合であれば、被害の拡大に利害を有していたと評価されやすく、一方、時間や回数に応じた定額であれば、労務の提供に近いという主張の余地が生まれます。第三に、認識の程度です。口座名義人が誰か、なぜ本人名義でないのか、なぜ短時間で全額を引き出すよう指示されるのか。こうした事情を本人がどう受け止めていたかを、供述だけでなく客観的な状況から再構成します。
取調べと初動で気をつけること
この類型では、初期の供述がその後の全体を決めてしまいます。「詐欺だと薄々思っていた」という一言が調書に残れば、共謀の認定は一気に近づきます。逆に、事実と異なる全面否認を続けることも、客観証拠と食い違えば信用性を損ないます。取るべきは、供述するかどうか、するとして何を話すかを、弁護人と相談したうえで決めるという姿勢です。黙秘権は認められた権利であり、その行使が不利益に扱われるべきものではありません。弁護人との接見は、接見禁止が付されていても制限されませんので、逮捕直後の段階で弁護人を選任し、方針を決めてから取調べに臨んでください。
在留資格への影響とご家族ができること
窃盗や詐欺は、有罪判決だけで退去強制事由となる薬物事犯とは異なり、無期又は1年を超える拘禁刑の実刑となった場合に、出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号リの問題が生じます。同号の但書により、全部執行猶予の判決は除かれます。被害額の認定が共謀の範囲に連動する以上、共謀を限定できるかどうかは在留の帰趨にも直結します。ご家族には、本人の銀行口座の履歴、報酬の受領状況、居住状況を整理していただくことをお願いします。被害弁償が可能であれば、被害者が誰なのか、金融機関なのか振込をした購入者なのかを弁護人と確認したうえで、原資の準備を進めてください。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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