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押収されたIDは290万件、起訴されたのは60万円分。立件範囲はどう絞るか

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押収されたIDは290万件、起訴されたのは60万円分。立件範囲はどう絞るか

押収されたIDは290万件、起訴されたのは60万円分。立件範囲はどう絞るか

2026/09/01

他人のアカウント情報を使って商品をだまし取ったとされる事件では、捜査の過程で桁違いの量の個人情報が押収されることがあります。報道の見出しには「ID290万件を押収」といった数字が並ぶ一方、実際に起訴された事実は数十万円分にとどまる、ということも珍しくありません。この記事は、ご家族が最初にぶつかる「本人は290万件分の責任を負わされるのか」という疑問に、正面から答えるものです。中国籍の方とそのご家族に向けて、押収データの量と立件範囲の関係、弁護人が実際に争う点、そして在留資格への影響を順に説明します。

報じられた事案の概要

読売新聞、朝日新聞、静岡新聞が2022年7月から2023年5月にかけて報じた事件では、神奈川県警ほか8県警の合同捜査本部が、フィッシングなどで入手したアカウント情報で決済サービスに不正接続し、加熱式たばこなどをだまし取ったとして、中国籍の男女計13人を摘発したとされています。技術者役とされた男性のパソコンからは、IDとパスワード約290万件、クレジットカード情報約1万7,000件、メールアドレス約1億件が押収されたと報じられました。他方、個別に立件されたたばこの購入額は約60万円分とされています。罪名は不正アクセス禁止法違反、詐欺、電子計算機使用詐欺、組織的犯罪処罰法違反などで、逮捕・再逮捕が繰り返されたと報じられています。いずれも起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。

なぜ押収データ量と立件額はこれほど食い違うのか

理由は単純です。刑事裁判で処罰の対象になるのは、検察官が起訴状に書いた具体的な事実だけだからです。この類型の事件では、どのアカウントに、いつ、どの端末から接続し、その結果としてどの商品がいくら分だまし取られたのか、という一件ごとの事実を、通信記録・決済記録・配送記録・防犯カメラなどで裏づけなければなりません。290万件のIDは、そこに存在していたというだけで、それぞれについて不正な接続や財産的な被害が確認できるわけではないのです。捜査機関が起訴事実を約60万円分に絞ったという報道は、裏を返せば、残る膨大なデータについては個別の立証ができていないことを示しています。

「290万件」が量刑に流れ込むのを防ぐ

ここが弁護活動の勝負どころです。起訴されていない事実を実質的に処罰する趣旨で量刑に用いることは許されない、というのが確立した考え方です。ところが実際の法廷では、押収データの総量が「犯行の規模」「組織性」「危険性」を語る材料として、間接的に量刑の材料に持ち込まれがちです。弁護人は、検察官の冒頭陳述や証拠意見の段階から、押収データの総量に関する立証がどの事実を証明するためのものかを問い、起訴事実と結びつかない部分については証拠としての必要性を争います。同時に、本人が担っていた役割が、データの収集・解析だったのか、注文の実行だったのか、商品の受領だったのかを切り分け、押収データを保有していた者と本人とを一体に評価させない構成を作ります。

弁護人が具体的に争う点

第一に、訴因の特定です。日時・接続先・被害額が概括的にしか書かれていない場合、防御の対象が定まりません。求釈明によって、一件ごとの特定を求めます。第二に、接続主体の同一性です。共用回線、社員が使い回していた端末、他人に貸したアカウント、遠隔操作の可能性など、通信記録の宛先と本人の行為を結ぶ環が本当につながっているかを検証します。第三に、共謀の範囲です。多人数が関与する事件では、本人が知り得た計画の範囲を超えて全体の被害を負わされることがあり、報酬の額と決め方、指示の受け方、離脱の可否といった事情から、責任の範囲を限定していきます。第四に、被害弁償です。認定される被害額が限定できれば、弁償の設計も現実的なものになります。

在留資格にはどう響くか

この類型の罪名は、薬物事犯のように有罪判決だけで退去強制事由となるもの(出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号チ)には当たりません。実務上問題になるのは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた場合の24条4号リですが、同号は但書により全部執行猶予の場合を除いています。つまり、執行猶予付きの判決であれば、それだけで直ちに退去強制事由になるわけではありません。出入国管理統計によれば、令和7年に4号リ単独で退去強制令書が発付されたのは全国で41人(うち中国籍11人)で、不法残留による5,778人と比べればごく少数です。ただし油断はできません。長期の身柄拘束によって就労や就学が三か月以上とだえると、在留資格の取消し(入管法22条の4第5号)の問題が生じますし、次の在留期間更新では素行が正面から審査されます。刑事の量刑と在留の帰趨は、別々の問題として同時並行で設計する必要があります。

ご家族が今日からできること

まず、本人の在留カードと旅券がどこにあるかを確認してください。捜査機関が押収している場合と、自宅や寮に残っている場合とで、その後の入管手続の進め方が変わります。次に、在留期限と更新の時期を確認します。身柄拘束が長引くと更新の申請自体ができなくなるため、早い段階で弁護人と手当てを相談してください。勤務先や学校への説明は、事実関係が固まらないうちに詳細を語ると不利益な取扱いを招くことがあるため、時期と内容を弁護人と決めてから行うのが安全です。差し入れは、現金、下着や靴下、日本語と中国語の書籍、眼鏡の予備などが実際に役立ちます。被害弁償の原資をどこまで用意できるかも、早めに家族内で見通しを立てておくと、示談交渉の選択肢が広がります。

中文版:扣押的ID有290万条,立案的只有60万日元:如何限定处罚范围

中国語対応の刑事弁護のご相談

舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。

お問い合わせ:舟渡国際法律事務所(東京)/微信ID matsumura1119

この記事を書いた弁護士

松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。

本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。

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