夫婦だから共謀していたことになるのか。生活の一体性からの推認に反論する
2026/09/01
夫婦が同じ日に逮捕され、同じ罪名で勾留される。この形の事件では、捜査機関も裁判所も、「同じ家に住み、家計を共にしているのだから、一方が知らなかったはずはない」という見方から出発しがちです。しかし、生活を共にしていることと、犯罪について合意していたこととは、まったく別のことです。この記事では、中国籍のご夫婦とそのご家族に向けて、生活の一体性からの推認にどう反論するのか、そして夫婦が同時に拘束されたときに何が起きるのかを説明します。
報じられている事件
福井新聞が2025年2月18日以降に報じたところによると、福井県内に住む50代女性の電話番号とパスワードを使って電子決済サービスに不正にアクセスし、他人名義で決済してテニスラケット19点をだまし取ったとして、横浜市に住む中国籍の30代の夫婦二人が、不正アクセス禁止法違反と詐欺の疑いで逮捕されたと報じられています。報道によれば、二人とも容疑を否認しているとされています。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
「知らなかったはずがない」という論法の構造
検察官が用いるのは、おおむね次の推認です。同居しているのだから、注文した商品が届けば目にするはずである。家計が一つなのだから、入ってきた金の出所を知らないはずがない。同じ端末や同じ通信環境を使っているのだから、操作を見ていないはずがない。一つひとつはもっともらしく見えますが、いずれも「はずである」という経験則に依拠しており、具体的な証拠ではありません。反論の作法は、この経験則が成り立たない具体的事情を、事実で埋めていくことに尽きます。
分離できるものを、一つずつ分離する
弁護人が行うのは、地道な分離作業です。第1に口座。決済に使われた口座、報酬の入った口座、生活費の口座が誰の名義で、誰が通帳とカードを管理していたかを示します。第2に端末。それぞれの携帯電話とパソコンについて、購入者、契約者、パスコードを知っていた者、実際の使用状況を切り分けます。第3に注文名義と配送先。誰のアカウントで注文され、どこに届き、誰が受け取ったのかを、伝票と受領記録で特定します。第4に生活時間。就労している側は日中不在であること、勤務先の記録がそれを裏付けることを示します。この四つを積み上げて、初めて「同居しているが、この件については関与していない」という主張が具体性を帯びます。
夫婦の一方が事業者である場合の注意
報道では、夫婦の一方が会社役員とされています。事業を営んでいる側は、事業の必要から複数の口座、複数の端末、複数の配送先を持つことが通常です。この事実は、二重の意味を持ちます。一方では、名義や配送先が分かれていることの自然な説明になります。他方では、事業の仕組みが不正な取引の受け皿として使われやすいことの説明にもなります。したがって、事業の実体を、取引先、帳簿、納税の記録によって具体的に示すことが不可欠です。実体のある事業であるという主張が、資料の裏付けを欠いたまま繰り返されると、かえって信用を損ないます。
夫婦が同時に拘束されると、何が起きるか
これは法律論よりも先に手当てが必要な問題です。未成年のお子さんがいる場合、保護する人がいなくなります。日本では児童相談所による一時保護の対象となり得ますし、親族が日本にいない場合には、中国のご家族の来日と滞在の手当てが必要になります。次に、住居です。家賃の支払いが止まれば住まいを失い、釈放後の帰住先がなくなって、勾留や保釈の判断にも響きます。さらに、勤務先への連絡、子どもの通学の継続、在留カードと旅券の保管も同時に問題になります。弁護人には、法律的な弁護と並行して、これらの生活基盤の維持について具体的に相談してください。
在留資格への影響
ご夫婦の場合、二人の在留資格が連動していることがあります。一方が家族滞在や日本人の配偶者等の資格である場合、もう一方の在留が崩れると、資格の基礎そのものが失われます。入管法24条4号には、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由とする定めがあり、全部執行猶予が付いた場合はただし書により除かれます。また、在留資格の取消しには、その資格に応じた活動を継続して3か月以上行っていないことを事由とするものがあります。出入国在留管理庁の統計によれば、令和7年の在留資格取消しは1446件で過去最高となっており、うち住居地の届出義務違反等を事由とするものが999件でした。長期の身柄拘束は、刑事処分とは別の経路で在留を危うくします。この点を最初から視野に入れて弁護方針を立てる必要があります。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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