電子チケットの不正取得を否認するとき、アクセスログが最大の焦点になる
2026/09/01
「自分ではない」と言い続けているのに、逮捕され、勾留が延び、さらに再逮捕される。不正アクセスを否認する事件では、この展開がしばしば起こります。捜査機関の側に、アカウントへの接続記録という、客観的に見える証拠があるからです。しかし、その記録が指し示すのは回線や端末であって、人ではありません。この記事では、中国籍の方とそのご家族に向けて、アクセスログをめぐって検察官が何を立証しようとするのか、否認する側は何を集めれば対抗できるのかを、順を追って説明します。
報じられている事件
福井新聞が2026年6月10日に、産経新聞などが同月29日の再逮捕について報じたところによると、福井県内に住む50代男性のチケット販売サイトのアカウントに複数回不正にアクセスし、電子チケットを取得したうえ、仲介サイトに定価の約4倍で出品して転売代金を出金したとして、東京都新宿区に住む中国籍の40代の男性が不正アクセス禁止法違反と電子計算機使用詐欺の疑いで逮捕されたと報じられています。仲介サイトには60件以上の出品履歴があったとされ、本人は「自分ではない」と否認していると報じられています。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
検察官はログで何を立証しようとするのか
検察官が組み立てるのは、通常、次の連鎖です。第1に、被害者のアカウントに接続した記録があること。第2に、その接続元のIPアドレスが特定の回線契約に結び付くこと。第3に、その回線が被疑者の自宅や勤務先のものであること。第4に、接続に使われた端末の識別情報やブラウザの情報が、押収された端末と一致すること。第5に、取得されたチケットの出品アカウントと出金先の口座が被疑者に帰属すること。この五つがつながると、たとえ本人が否認していても、間接事実の積み重ねとして有罪認定に至り得ます。逆に言えば、この連鎖のどこか一つでも切れていれば、そこが防御の中心になります。
IPアドレスは人を特定しない
最も誤解されやすいのがここです。IPアドレスから分かるのは、ある時刻にどの回線契約が使われたかであって、その回線を誰が使っていたかではありません。自宅の回線であれば同居している家族や友人が使い得ますし、店舗や事務所の回線であれば従業員や来客が使い得ます。集合住宅で提供される共用回線や、飲食店の無線ネットワークでは、契約者と利用者の距離はさらに開きます。また、通信事業者が保存するログには保存期間があり、割当ての履歴が残っていない時間帯もあります。弁護人は、まず接続記録の1件ごとに日時を書き出し、その時刻に本人がどこにいたのかを検証します。
否認を支える事実は、こうして集める
否認の主張は、「やっていない」という言葉だけでは支えられません。集めるべきは、接続時刻に本人が別の場所にいたことを示す資料です。勤務先の出勤簿やシフト表、レジの操作記録、交通系ICカードの利用履歴、クレジットカードや電子決済の利用記録、防犯カメラの映像、本人の端末に残る位置情報や写真の撮影データ、同席していた人の証言が典型です。防犯カメラは保存期間が短く、多くは数週間で上書きされますから、逮捕直後に弁護人が保全を求めるかどうかで結論が変わることがあります。端末についても、押収前に本人が使用していた時間帯と、問題の接続時刻とを突き合わせる作業が必要です。
出品と出金という利益の帰属をどう説明するか
否認事件で最後まで残りやすいのが、利益の行き先です。転売代金の出金先が本人名義の口座であった場合、その事実は非常に重い意味を持ちます。したがって、口座やアカウントを他人に渡していた事情があるのなら、いつ、誰に、どのような経緯で渡したのかを、記録とともに具体的に説明する必要があります。ここで注意していただきたいのは、口座やアカウントを他人に譲り渡す行為自体が、別の犯罪として立件され得るということです。一つの弁解が別の罪を呼び込む場面ですから、供述の方針は必ず弁護人と相談してから決めてください。
在留資格への影響と、ご家族が今日できること
報道からは、この方の在留資格は分かりません。そのうえで一般論を申し上げれば、就労資格や留学のような別表第一の在留資格であれば、長期の身柄拘束それ自体が在留を危うくします。在留資格の取消しには、その資格に応じた活動を継続して3か月以上行っていないことを事由とするものがあり、令和7年の取消件数1446件のうち、住居地の届出義務違反等を事由とするものが999件(69・1%)を占めたことが出入国在留管理庁の統計で示されています。勾留中は住居地の届出も更新申請も自分では行えませんから、ご家族には、在留期限の日付、在留カードと旅券の所在、家賃と携帯電話の支払いの継続を、まず確認していただきたいと思います。あわせて、接続時刻に本人がどこにいたかを裏付ける資料を、消える前に集めてください。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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