カード情報を入力した人と、商品を受け取った人で、罪名はどう変わるのか
2026/09/01
同じ一つの事件でも、担った役割によって、付けられる罪名は変わります。カード情報を決済画面に入力した人、商品を受け取った人、それを売って現金に換えた人。日本の刑法は、この三つを別々の類型として扱います。そして、どの罪名が何個成立するかという罪数の整理は、量刑に直接跳ね返ります。この記事では、役割ごとの罪名の分かれ方と、罪数整理が結論に及ぼす影響を説明します。
報道された事案
2026年5月、読売新聞、中日新聞、テレビ愛知ほかの報道によれば、他人のクレジットカード情報を通販サイトの決済画面に入力して商品を購入し、荷受け役の住居などに配送させて売却したとして、中国籍の男女ら数人が、私電磁的記録不正作出・同供用、窃盗、詐欺の疑いで逮捕されたと報じられています。その後も再逮捕が繰り返されました。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。報道で複数の罪名が並んでいるのは、捜査機関が役割ごとに構成を分けているためです。
入力する人 私電磁的記録不正作出・同供用
他人のカード情報を決済画面に入力する行為は、事業者の管理する記録に、権限がないのに支払いの意思表示があったかのような内容を作り出す行為です。日本の刑法は、権利義務に関する電磁的記録を不正に作り出す行為と、それを事務処理に使わせる行為を、それぞれ処罰しています。前者が不正作出、後者が供用です。人をだます相手がいない場面でも成立する点が特徴で、機械を相手にした財産犯の入口に位置します。
あわせて、財産上の利益を得たと評価される場面では、電子計算機使用詐欺(刑法246条の2)が問題になります。実際にどの構成が採られるかは、事業者側の決済の仕組み、記録の作られ方、商品が誰の意思で発送されたかによって変わります。争うべき点は、入力を行ったのが誰かという実行行為者の特定と、情報の入手経路についての認識です。
受け取る人 窃盗か、詐欺か
受領する側は、事案によって窃盗にも詐欺にもなり得ます。区別の基準は、財物の移転が誰の判断によって生じたかです。販売する事業者の担当者が、正当な注文だと誤信して発送したのであれば、人を欺いて財物を交付させたことになり、詐欺の構成が採られます。他方、他人が受け取るべき荷物を、本来の受取人の意思に反して自分のものにしたと評価される場面では、窃盗の構成が採られます。宅配ボックスや置き配、他人名義での受領は、この区別が微妙になる典型です。
実務上、この区別は形式的な言葉遊びではありません。被害者が誰になるか、被害額をどう計算するか、誰に弁償すべきかが、すべてここから決まるからです。弁償の相手を取り違えれば、支払っても量刑には反映されません。弁護人が最初に確定すべきなのは、この点です。
罪数の整理が、量刑に直結する
役割が複数にまたがると、罪名も複数になります。入力と受領と換金をすべて担えば、それぞれについて成立を検討され、併合罪として量刑がまとめて判断されます。逆に、受領のみを担った人については、成立する罪名も、認定される被害額も限定されます。ここで重要なのは、罪名の数を減らすこと自体が目的ではないという点です。継続的な行為を一つの罪と評価すれば、その分だけ被害額全体が自分の行為として取り込まれることもあります。どの整理が有利かは事案によって異なり、戦略的な判断を要します。
数字の面も見ておきます。法務省『令和7年版犯罪白書』(対象年次は令和6年)によれば、窃盗の起訴率は全体で44.84%、来日外国人で52.53%、詐欺は全体で51.42%、来日外国人で53.35%でした。また警察庁『令和6年における組織犯罪の情勢』によれば、来日外国人による刑法犯の共犯事件率は41.1%で、日本人の12.5%の約3.3倍です。複数人で役割を分担する事件が多いということは、自分の役割の輪郭をはっきりさせる作業が、そのまま防御になるということでもあります。
在留への影響と、今日できること
出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号リは、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた場合を退去強制事由とし、全部執行猶予が付けばただし書で除かれます。したがって、実刑か執行猶予かの境目は、在留の帰趨そのものです。また、退去強制に至らない場合でも、在留期間の更新や在留資格の変更の審査では素行が問われ、事案によっては在留資格の取消しが問題になります。
ご家族に今日していただきたいのは、次のことです。第一に、在留カードと旅券の所在、在留期限の確認。第二に、押収されていない預金や現金の保全、弁償の原資の準備。第三に、勤務先や学校への説明の時期と内容を弁護人と相談すること。第四に、中国語で対応できる弁護人への連絡です。逮捕から検察官が勾留を請求するまでは72時間しかありません。この段階で罪名と役割を正確に把握しておくことが、その後の見通しを立てる出発点になります。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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