荷受けバイトは、報酬額と指示内容で「知っていたこと」の程度が変わる
2026/09/01
「自宅で荷物を受け取って、来た人に渡すだけ」。そう説明される仕事に、なぜ高い報酬が付くのか。荷受け役として摘発された事件では、この報酬の水準そのものが、故意を推認する材料として持ち出されます。この記事では、実際に報じられた事案を手がかりに、荷受け役に問われる罪名、報酬額と指示内容が認識の程度をどう分けるのか、そして関与した時期を限定して被害額を切るという防御の考え方を説明します。
報道された事案 転売額が積み上がった構造
2026年5月15日から16日にかけて、読売新聞、テレビ愛知、中日新聞ほかが報じたところによれば、他人のクレジットカード情報を通販サイトの決済画面に入力して腕時計や家電、化粧品などを購入し、いわゆる荷受けバイトの自宅などへ配送させて売却したとして、中国籍の男女ら数人が、私電磁的記録不正作出・同供用、窃盗、詐欺の疑いで逮捕されたと報じられています。その後も同年6月に再逮捕・追加逮捕が繰り返され、転売額は約3億7,200万円以上とされています。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
ここで注意していただきたいのは、報じられた総額が、直ちに一人ひとりの責任の範囲を意味しないという点です。この種の事件は、情報の入手、注文、荷受け、換金という工程に分かれ、関与する人が入れ替わりながら長期間続きます。総額はグループ全体の数字であり、個々の被疑者について立件される金額とは、通常大きな開きがあります。
荷受け役に問われる罪名は、一つではない
荷受け役は「受け取っただけ」ですが、法律上は複数の構成が考えられます。第一に、注文から受領までの一連の行為について、詐欺その他の犯罪の共犯として責任を問われる場合。第二に、犯罪によって得られた物を受け取り、保管し、運び、あるいは処分をあっせんした行為が、それ自体として処罰される場合。第三に、受け取った物を売却して現金化した部分について、別に評価される場合です。どの構成が採られるかによって、成立する罪名も、量刑の枠組みも変わります。
そして、いずれの構成でも共通して問われるのが、認識の程度です。「まったく知らなかった」のか、「怪しいとは思ったが、深く考えなかった」のか、「犯罪だと分かっていた」のか。この三つの間のどこに位置づけられるかで、結論が大きく動きます。
報酬額・偽名・受取場所の指定が、判断材料になる
第一の材料は、報酬の水準です。荷物を受け取って渡すという作業に、通常の労働の対価としては説明のつかない金額が支払われている場合、「危険の対価だと理解していたのではないか」という推認が働きます。労働時間当たりに換算するとどうか、同種の正規の業務ではいくらか。この比較は、取調べでも公判でも持ち出されます。
第二の材料は、名義です。自分の本名ではない宛名で荷物を受け取っていた、届け先として偽名を使うよう指示されていた、身分を明かさないよう求められていた。これらは、正当な取引では説明がつきません。第三の材料は、受取場所の指定です。自宅ではなく空き室、短期賃貸の部屋、コインロッカー、他人名義の住所。加えて、受取後すぐに外箱を捨てるよう指示されていたか、配送の伝票を保存しないよう言われていたか。これらは、痕跡を残さないための指示であり、指示の目的について認識があったことを推認させます。
逆にいえば、これらの事情がない、あるいは途中から変わったのであれば、そこに防御の余地があります。開始時点で提示された条件と、実際に行われたことの落差を、時系列で示すことが有効です。
関与の時期を限定して、被害額を切る
この類型の実務で最も効くのは、期間の限定です。捜査は再逮捕を重ねながら進み、事件は次第に大きくなります。しかし、量刑を決めるのは、自分の行為として認定される範囲です。したがって、いつからいつまで、何回、どの荷物について関与したのかを、配送記録、通信履歴、報酬の入金記録といった客観的な資料で確定していきます。とりわけ、途中で不審を抱いて断った、条件の変更を拒んだ、といった事実があれば、それ以降の関与を否定する重要な手がかりになります。
あわせて、被害の回復を進めます。財産犯である以上、弁償は量刑に直接影響します。受け取った報酬を費消せずに保全すること、家族が弁償の原資を用意することが、ここでは決定的な意味を持ちます。法務省『令和7年版犯罪白書』(対象年次は令和6年)によれば、来日外国人被疑事件の起訴猶予率は48.35%であり、起訴前の段階で何ができるかが結論を分けます。
在留への影響と、ご家族が最初にすること
出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号リは、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由とし、全部執行猶予が付いた場合はただし書で除かれます。出入国在留管理庁の出入国管理統計(令和7年)によれば、4号リ単独による退去強制令書の発付は全国で41人、うち中国籍は11人ですが、不法残留との並立を含めると中国籍は47人となり、中国籍の発付総数686人の6.9%を占めます。ベトナムの2.3%と比べると約3倍であり、中国籍については実刑と在留の結びつきが相対的に強い、というのが統計から読み取れる事実です。
ご家族には、次の四点をお願いしています。第一に、在留カードと旅券の所在、在留期限の確認。第二に、報酬として受け取った金銭の保全と、弁償の原資の準備。第三に、勤務先や学校への説明の時期を弁護人と相談すること。第四に、身元引受人の確保です。逮捕から検察官が勾留を請求するまでは72時間、勾留は原則10日、延長で最長20日。この期間の使い方が、その後を決めます。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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