乗車券を買って金券ショップで売る。なぜ二つの罪名が立つのか
2026/09/01
他人のカード情報で乗車券を買い、それを金券ショップで現金に換える。行為としては単純ですが、日本の刑法では、これは二つの別々の犯罪として扱われます。購入する行為と、換金する行為が、それぞれ違う法益を侵害しているからです。この記事では、その二つの罪名の中身、転売先の記録が被害額の認定にどう直結するのか、そして罪数の整理が量刑と在留にどう跳ね返るのかを説明します。
報道された事案
2023年7月18日、旅日僑網は、日本で会社を経営する中国籍の40代の男性と、在留資格「留学」を有する中国籍の20代の男性が、2022年6月から2023年5月にかけて、他人名義のカード6枚を不正に利用して乗車券96枚(合計約67万円相当)を購入し、金券ショップで転売したとして、電子計算機使用詐欺および盗品等有償処分あっせんの疑いで摘発されたと報じました。背景にあるカード情報の不正取得グループによる被害額は約1,560万円とされています。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
券売機での購入は、電子計算機使用詐欺
人をだまして財物を交付させれば詐欺です。しかし、券売機やインターネットの決済画面には、だまされる人がいません。そこで刑法246条の2は、電子計算機に虚偽の情報や不正な指令を与えて財産権の得喪に関する不実の電磁的記録を作り、財産上不法の利益を得る行為を、電子計算機使用詐欺として処罰しています。他人名義のカード情報を入力して乗車券を発券させる行為は、この類型に当たると扱われるのが実務です。
ここで重要なのは、被害者が誰かという点です。名義人本人か、カード会社か、鉄道事業者か、加盟店か。事案によって異なり、被害弁償や示談の相手方も変わります。誰に対して回復するのかを取り違えると、せっかくの弁償が量刑に反映されません。ここは弁護人が最初に確定すべき事項です。
金券ショップでの転売は、別の罪になる
不正に取得された乗車券は、犯罪によって得られた物です。これを金券ショップに持ち込み、有償で処分することを媒介する行為は、盗品等の有償の処分のあっせんとして、購入行為とは別に処罰の対象となります。この罪が守っているのは、被害者が自分の物を取り戻す権利、すなわち追求権であり、購入行為が侵害した財産上の利益とは別のものです。だからこそ、二つの罪が並び立ちます。
実務上は、これらが併合罪として処理され、量刑はまとめて判断されます。二つの罪名が付くこと自体が刑を機械的に倍にするわけではありませんが、犯罪の完結までの一連の流れを自ら担ったという評価につながり、量刑上は重く働きます。逆に、購入には関与せず換金だけを担ったという事案では、関与の範囲を明確にすることが防御の中心になります。
転売先の記録が、被害額の認定に直結する
金券ショップは、古物営業の規制を受け、買い取りの際に本人確認を行い、取引の記録を残します。買取伝票には、日付、券種、枚数、金額が残り、防犯カメラの映像も保存されます。したがって、いつ、どの券を、いくらで換金したかは、供述に頼らずに再現できます。カード会社側にも、いつどの端末でどの取引が行われたかの記録があります。この二つを突き合わせれば、被害額は積み上げ式に確定していきます。
この客観性は、防御にも使えます。グループ全体の被害額が大きい事案では、しばしば全体の数字が独り歩きします。しかし記録を丁寧に突き合わせれば、自分が関与した取引だけを切り出すことができます。報道された事案でも、グループ全体の被害額と、個別に立件された乗車券の金額とでは、規模がまったく異なります。量刑を左右するのは、自分の行為として認定される範囲です。ここを詰める作業は、実際に量刑を動かします。
量刑と在留への影響、そして今日すべきこと
この類型は財産犯であり、被害の回復が量刑に直接効きます。法務省『令和7年版犯罪白書』(対象年次は令和6年)によれば、詐欺の起訴率は全体で51.42%、来日外国人で53.35%でした。起訴されるかどうかは、被害弁償の進み具合と、関与の範囲をどう説明できるかに大きく左右されます。
在留の面では、出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号リが、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた場合を退去強制事由とし、全部執行猶予が付けばただし書で除かれます。もっとも、退去強制に至らなくても、在留期間の更新や資格変更の審査では素行が問われます。ご家族には、次のことをお願いしています。第一に、換金で得た金銭を費消せず保全すること。第二に、被害弁償の原資を用意すること。第三に、勤務先や学校への説明の時期を弁護人と相談すること。第四に、旅券・在留カードの所在と在留期限を確認することです。
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舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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