「1件50元で荷物を受け取るだけ」が刑事事件になった留学生の話
2026/09/01
微信で見つけた「荷物の受け取り代行」。寮で宅配を受け取り、指定された相手に渡すだけで、1件につきわずかな報酬が入る。日本語も要らず、時間も取られない。そう説明されて始めた仕事が、ある日、刑事事件になります。この記事では、実際に報じられた事案をもとに、受け取るだけでどうして罪に問われるのか、回数と報酬の仕組みがどのように故意の認定に使われるのか、そして留学生の在留資格に何が起きるのかを説明します。
報道された事案 寮での60回以上の受け取り
2023年7月18日、旅日僑網は、中国籍の40代の男性(日本で会社を経営)と、在留資格「留学」を有する中国籍の20代の男性が、他人名義のカード6枚を不正に利用して乗車券96枚(合計約67万円相当)を購入し、金券ショップで転売したなどとして、電子計算機使用詐欺および盗品等有償処分あっせんの疑いで摘発されたと報じました。背景にあるカード情報の不正取得グループによる被害額は約1,560万円とされています。報道によれば、留学生は微信で見つけた「荷物の受け取り代行」として、寮で60回以上荷物を受け取り、報酬は1件50元だったとされています。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
受け取るだけで、なぜ罪に問われるのか
不正に取得されたカード情報で購入された商品や乗車券は、犯罪によって得られた物です。それを受け取り、指示された相手に引き渡す行為は、犯罪から生じた物の流れを完成させる役割を担っています。日本の刑法は、こうした受領・運搬・保管・処分のあっせんといった行為を、それ自体として処罰の対象としています。加えて、グループの一員として、詐欺その他の犯罪の実現に加功したと評価されれば、共犯としての責任を問われることもあります。
「自分は中身を知らなかった」という説明は、この段階では決定的ではありません。故意は、本人の記憶の中にあるものではなく、外形的な事実から推認されるからです。何を知っていたと認定されるかは、本人の言葉ではなく、行為の周辺にある事情の積み重ねによって決まります。ここを理解しないまま、「知らなかった」とだけ繰り返すと、供述の信用性そのものが失われ、かえって不利に働きます。
回数と報酬の仕組みが、故意の推認に使われる
捜査機関がまず見るのは、回数です。一回や二回であれば、頼まれて手伝ったという説明も自然ですが、六十回を超えると、それは継続的な業務です。次に報酬の仕組みです。荷物の中身や重さや距離ではなく、件数に応じて支払われるという仕組みは、正規の配送業務では通常見られません。第三に、依頼者との関係です。実名も所属も知らない相手から、通信アプリだけでやり取りが続いている。第四に、宛名です。自分の名前ではない複数の名義の荷物が、同じ住所に届く。
これらは一つひとつを取れば、それ自体は犯罪ではありません。しかし束ねられると、「少なくとも正当な取引ではないと分かっていたはずだ」という推認を支えます。これが未必の故意の認定です。弁護人の仕事は、この束を一本ずつ解くことです。開始時期に何を説明されたか、途中で不審を抱いたのはいつか、その後に態度を変えたか。時系列で切り分ければ、関与の全期間について同じ認識があったという前提を崩せる場合があります。
寮と配送の記録が、動かない資料になる
この類型で決定的なのは、記録の量です。宅配便には伝票番号、日時、受領のサインまたは電子的な記録が残ります。寮であれば、管理人室の受取簿、共用部の防犯カメラ、入退館の記録が加わります。学校の寮は管理が厳格ですから、むしろ一般のアパートよりも記録が整っています。通信アプリの履歴、報酬の受け渡し方法、指定された引渡し場所も、押収された端末から復元されます。
したがって、受け取った事実そのものを争うことは通常できません。争点は、いつからいつまで、どういう認識で関与したかに絞られます。逆に言えば、記録が精密であることは、関与の始期と終期を客観的に確定できるという意味でもあります。被害額のうち自分が関与した部分を限定する主張は、この記録の精密さに支えられています。
留学生の在留資格に、何が起きるか
刑事処分と在留は別々に進みます。まず、資格外活動の問題です。留学の在留資格で報酬を得る活動を行うには資格外活動の許可が必要であり、その範囲を超えれば入管法上の問題になります。次に、有罪となった場合の退去強制です。刑罰に着目した24条4号リは、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた場合を対象とし、全部執行猶予が付けばただし書で除かれます。もっとも、退去強制に至らなくても、在留期間の更新が認められなければ在留の継続はできません。出入国在留管理庁の統計(令和7年)では、在留資格の取消しは1,446件で過去最高となり、うち留学は343件でした。
ご家族と学校にお願いしたいのは、次の三点です。第一に、退学の手続を急がないこと。学籍を失うと在留の基礎が消え、刑事処分の前に在留の問題が確定してしまいます。第二に、報酬として受け取った金銭を、返還や被害弁償に充てられるよう保全しておくこと。第三に、中国語で対応できる弁護人に早く相談することです。逮捕から勾留請求までは72時間しかありません。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
お問い合わせ:舟渡国際法律事務所(東京)/微信ID matsumura1119
この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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