税関に告発された場合と、警察に逮捕された場合で、何がどう違うのか
2026/09/01
空港や港で荷物を止められたとき、その後の展開は二通りに分かれます。税関の職員が犯則事件として調査を進め、検察官に告発する道と、警察官が逮捕して捜査を進める道です。どちらも最後は検察官の処分に行き着きますが、途中の時間の流れも、身柄の扱いも、弁護人が入るべきタイミングも大きく異なります。この記事では、税関の犯則調査と刑事訴訟手続がどうつながっているのか、身柄があるかないかで何が変わるのか、そして罪名の違いが在留にどう跳ね返るのかを整理します。
二つの入口 税関の犯則調査と、警察の捜査
税関は、関税法に基づいて犯則事件の調査を行う権限を持っています。職員は質問をし、物品を検査し、任意に提出された物を領置し、裁判官の許可を得て臨検・捜索・差押えをすることができます。ここで集められた資料は、調査が終わった段階で検察官への告発という形にまとめられ、そこから先は通常の刑事手続に接続します。税関の発表文に「〇〇地検に告発した」と書かれているのは、この段階を指します。
これに対して警察の捜査は、逮捕という身柄の拘束を伴うことが多く、時間の刻み方がまったく違います。逮捕から48時間以内に検察官へ送致、24時間以内かつ逮捕から72時間以内に勾留請求、勾留は原則10日で最長20日。この短い時間の中で処分が決まっていきます。空港での薬物事案のように、税関の検査が端緒でありながら現行犯逮捕に移行し、両方の性格を併せ持つ事件も少なくありません。
報道された二つの事案
2025年12月11日、沖縄タイムスおよび沖縄地区税関の発表によれば、那覇空港で、タイから台湾を経由して入国した台湾籍の20代の男性と中国籍の20代の女性が、衣類のポケット内に隠していた麻薬である大麻2.85グラムおよびテトラヒドロカンナビノールを含有する液状物10.73グラムについて、関税法違反(輸入してはならない貨物の輸入未遂)の疑いで那覇地検に告発されたと報じられています。
他方、2026年7月8日、大阪税関の発表と読売新聞ほかの報道によれば、関西国際空港に香港から到着した航空貨物の電気スタンドや充電器の内部に板状の金を隠して輸入しようとしたとして、中国籍の男性ら2人が、関税法違反(無許可輸入未遂)、消費税法違反、地方税法違反の疑いで大阪地検堺支部に告発され、報道では逮捕後に起訴されたとされています。隠されていた金は合計1,656個、25,184.2グラム、鑑定価格の合計は3億6,323万4,789円と発表されています。いずれも起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
身柄があるかないかで、時間の流れが変わる
告発型の事件は、在宅のまま進むことがあります。呼出しに応じて説明し、資料を提出し、数か月後に処分が決まる。この場合、生活は続けられますが、油断もできません。時間があるということは、こちらも準備ができるということであり、同時に、捜査機関も裏付けを積み上げられるということだからです。とりわけ貨物を用いた輸入事案では、申告名義人と実際の関与者が一致しないことが多く、名義を貸しただけなのか、指示を出していたのかが主戦場になります。通関書類、送金の流れ、通信の履歴が、時間をかけて収集されます。
逮捕型の事件は、逆に、こちらが準備をする時間がありません。取調べは連日続き、通訳を介した供述が調書になり、その内容は後から動かしにくくなります。ですから逮捕型では、最初の接見で供述の方針を固めることが何より重要になります。記憶にないことを推測で埋めない、読み聞かされた調書に納得できなければ署名しない。単純ですが、これを守れるかどうかが結果を分けます。
弁護人を選任するタイミングが違う
逮捕された場合、弁護人の選任は当日です。接見禁止が付いても弁護人との接見は制限されません(刑事訴訟法39条1項)。他方、告発型の場合、多くの方は「まだ逮捕されていないから」と様子を見てしまいます。しかし、告発される前の段階、つまり税関の調査に対して説明をしている時期こそが、事実関係の枠組みが固まる局面です。ここで提出する説明書や資料が、そのまま検察官の手元に届きます。告発の後で覆すよりも、告発の前に整理するほうがはるかに容易です。
数字も見ておきます。法務省『令和7年版犯罪白書』(対象年次は令和6年)によれば、関税法違反の起訴率は、来日外国人で76.21%、全体では66.92%でした。総数の起訴率が全体で40.38%、来日外国人で44.28%であることと比べると、関税法違反は起訴されやすい類型だと分かります。「告発されただけだから大丈夫」とは言えないのです。
罪名の違いが、在留の帰趨を分ける
ここが最も見落とされる点です。出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号チは、覚醒剤取締法、麻薬及び向精神薬取締法、大麻草の栽培の規制に関する法律などの違反について、有罪判決があれば足り、罰金でも執行猶予でも退去強制事由に該当するとしています。在留資格の種類も問いません。さらに、上陸拒否についても、薬物関係には年限の定めがなく、期間の制限のない拒否事由となります。2024年12月12日施行の改正により、大麻は麻薬及び向精神薬取締法上の麻薬とされ、使用罪も新設されました。
これに対して、金の密輸のように薬物が関係しない関税法違反では、24条4号チは働きません。退去強制事由に当たるかは、無期または1年を超える実刑を定めた4号リによって判断され、全部執行猶予が付けばただし書で除かれます。同じ「税関で止められた」事件でも、薬物か否かで在留の結論はまったく変わります。ご家族が最初にすべきことは、罪名を正確に把握することです。そのうえで、旅券と在留カードの所在、送金や通信の記録、勤務先や学校への説明の順序を整えてください。
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舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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