「禁止されている種だと知らなかった」 オカヤドカリ12.8キロの捕獲は罪になるか
2026/09/01
南の島で見つけた生き物を、珍しいからと持ち帰ろうとして摘発される。旅行者にも、日本で働く外国籍の方にも起こりうる事件です。この記事は、天然記念物に指定された生き物を捕まえた場合に何の罪に問われるのか、「禁止されている種だとは知らなかった」という弁解が法律上どこまで通るのか、捕獲の態様や数量が処分にどう跳ね返るのかを、実際に報じられた事案を手がかりに説明します。中国籍の方とそのご家族に向けた解説です。
報道された事案 奄美でのオカヤドカリの捕獲
2026年6月25日、奄美新聞および南海日日新聞(旅日僑網が引用)は、鹿児島県奄美市で、中国籍の20代と30代の男性2人が、天然記念物であるオカヤドカリを捕獲した疑いで、文化財保護法違反として捜査を受けたと報じました。住民の通報を受けた捜査員が駐車場でレンタカーを発見し、網袋に入った約12.8キロのオカヤドカリを押収したとされています。捕獲したこと自体は認めたものの、禁止されている種だとは知らなかったと述べ、一部を否認していると報じられました。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
同じ奄美市では、2025年5月にも、中国籍の者による約160キロ、約5,200匹に上る同種の事案が報じられています。つまりこれは、偶発的な一件ではなく、繰り返し摘発されている類型だということです。捜査機関も、地元も、この種の行為に敏感になっています。
天然記念物という規制は、何を禁じているのか
文化財保護法は、学術上価値の高い動植物や地質鉱物を天然記念物として指定し、その現状を変更する行為や保存に影響を及ぼす行為を、原則として許可なく行ってはならないものとしています。オカヤドカリは、その指定を受けた動物です。捕まえて袋に入れる行為は、まさに現状の変更に当たります。ここで注意していただきたいのは、この規制が守っているのが誰かの財産ではないという点です。海岸の生き物には所有者がいませんから、窃盗にはなりません。しかし、所有者がいないことは、自由に採ってよいことを意味しません。
保護されているのは、その土地に固有の生態系と学術的な価値という、地域社会と将来の世代に属する利益です。だからこそ、被害者と示談をして終わりにするという解決の形が取りにくく、代わりに、生きた個体を元の環境に戻せるか、地域に対してどのような回復措置を取れるかが、処分の判断における中心になります。
「知らなかった」という弁解は、どこまで通るのか
ここは最も誤解の多いところです。日本の刑法38条3項は、法律を知らなかったとしても、それによって罪を犯す意思がなかったとすることはできないと定めています。つまり、「その生き物が天然記念物に指定されていると知らなかった」「日本にそういう法律があると知らなかった」という主張は、法律の不知であって、それだけでは故意を否定できません。ただし同項は、情状により刑を減軽することができるとも定めています。知らなかったという事情は、処分の軽重の側で意味を持つのです。
他方で、区別すべき主張があります。目の前の生き物がどういう生き物かという認識、たとえば「別の種類だと思っていた」「捕まえたのは自分ではなく、袋を運んだだけだ」といった主張は、法律の不知ではなく事実の認識の問題であり、故意そのものを争う余地があります。「知らなかった」という一言をどちらの意味で述べるかで、法的な帰結はまったく変わります。取調べでこの区別を意識せずに話すと、意図しない供述が調書に残ります。通訳を介した取調べでは特に、翻訳の過程でこの区別が曖昧になりやすいので、注意が要ります。
捕獲の態様と数量は、どう評価されるか
処分の重さを決めるのは、行為の外形です。第一に数量です。手に取った一匹と、袋に詰めた十数キロとでは、生態系への影響も、行為に注ぎ込まれた意思の強さも異なります。第二に道具と準備です。網袋や容器を用意していたか、車を使って移動していたか、夜間に行ったか。準備が周到であるほど、偶発的な行為だという説明は通りにくくなります。第三に処分の目的です。売却先を探した形跡があれば、営利性が加わって評価は一段重くなります。
弁護活動としては、まず生きている個体の返還と放逐を最優先に検討します。次に、地域の関係機関への謝罪、贖罪寄付、再訪しない旨の誓約といった措置を積み上げます。そのうえで、行為が一日限りのものだったのか、事前の計画があったのかを、客観的な資料で切り分けます。数量が大きい事案ほど、量そのものは動かせませんから、行為の期間と回数を限定することが実際の防御になります。
在留への影響と、ご家族が最初にすること
出入国管理及び難民認定法(入管法)は、退去強制の事由を24条各号に限定しています。刑罰に着目した4号リは、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた場合を対象とし、全部執行猶予が付いた場合はただし書で除かれます。この類型で通常想定される処分の範囲であれば、直ちに退去強制につながるとは限りません。もっとも、短期滞在で来日している方の場合、身柄拘束が続けば在留期限が到来してしまい、別の問題が生じます。また有罪となれば、その後の上陸審査で素行の一事情として顧慮される可能性があります。
ご家族にお願いしたいのは次の点です。旅券と在留カードの所在を確認すること、帰国便の予約状況を整理すること、生活費と弁償の原資を用意すること、そして中国語の通訳を確保できる弁護人に早く連絡することです。逮捕から検察官が勾留を請求するまでは72時間、勾留は原則10日、延長で最長20日です。この短い期間に、返還や謝罪をどこまで進められるかが処分を左右します。
中文版:“不知道是禁止物种”,12.8公斤陆寄居蟹的捕获会构成犯罪吗
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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