船の食材にするために採ったナマコ。営利目的がなければ処分は変わるのか
2026/09/01
日本の港に停泊する船で働く外国籍の乗組員が、船内で食べるつもりで海の生き物を採り、摘発される事件が報じられることがあります。ご本人にもご家族にも、「売るつもりはなかったのに、なぜ犯罪になるのか」「営利目的でなければ処分は軽くなるのではないか」という疑問が残ります。この記事では、外国人が日本の水域で水産動植物を採ることを規制する法律の骨格、営利性がないことが検察官の処分にどこまで効くのか、被害の回復として何ができるのかを整理します。中国籍の乗組員の方とそのご家族、船舶代理店の担当者に向けた解説です。
報道された事案 船の乗組員によるナマコの採捕
2025年1月26日、日本海テレビは、停泊中の貨物船の乗組員である中国籍の料理人ら3人が、船上で使う食材を現地調達する目的でナマコなどを密漁した疑いで、外国人漁業の規制に関する法律違反として捜査を受けたと報じました。確認できたのは見出しの範囲にとどまるため、押収量・被害額・年齢といった細部には触れません。また、これは疑いの段階で報じられたものであり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
この事案が示すのは、「売るためではない」「船の食事にするだけだった」という動機であっても、採る行為が法律の禁じる採捕に当たれば犯罪の成立自体は否定されない、ということです。動機は、成立の可否ではなく処分の重さの側で働きます。
外国人漁業の規制に関する法律とは、どのような枠組みか
この法律は、外国人が日本の管轄する水域で漁業や水産動植物の採捕を行うことを原則として制限し、一定の場合に許可を要する仕組みを定めたものです。日本人が同じ行為をした場合には漁業関係の法令や都道府県の規則が適用されるのに対し、外国籍の乗組員が入港中に海に入って生き物を採る行為は、この法律の問題として立件されることがあります。もっとも、事案によっては別の法令が適用される可能性もあり、報道だけでは適用法令を確定できません。
大切なのは、この規制が守るのが特定の個人の財産ではなく、水産資源の管理と漁業の秩序という社会全体の利益だという点です。窃盗のように被害者個人がいる犯罪であれば、示談によって被害を回復し、処罰の必要性を下げられます。これに対して資源管理型の規制違反では、示談の相手が誰なのかがそもそも一義的ではありません。この構造を理解しないまま「弁償すれば終わる」と考えると、初動を誤ります。
営利目的がないことは、検察官の処分にどう効くのか
結論から述べると、営利性の有無は犯罪の成立を左右しないことが多い一方で、検察官がどの処分を選ぶかには強く効きます。日本の検察官は、起訴(公開の法廷で審理する公判請求と、書面審理で罰金を科す略式命令請求)と不起訴(嫌疑不十分などのほか、犯罪の成立を前提としつつ処罰を見送る起訴猶予)を選択する広い権限を持っています。法務省『令和7年版犯罪白書』(対象年次は令和6年)によれば、来日外国人被疑事件の起訴猶予率は48.35%で、約半数が起訴猶予によって不起訴となっています。つまり、起訴されるかどうかが決まる前の段階の弁護活動に大きな意味があります。
販売目的の組織的な密漁と、船内の食事のために採った行為とでは、資源への影響も、利得の有無も、常習性も異なります。採った量、要した時間、道具の準備、役割分担を、供述だけでなく客観的な資料で示せるかが分かれ目です。営利性を否定する主張は、「売るつもりはなかった」と述べるだけでは足りず、船内の食事の実情、乗組員の食材調達の慣行、当日の献立や購買の記録といった裏付けを集める作業が要ります。
被害の回復として、実際に何ができるか
最初に検討すべきは、採ったものの取扱いです。生きた状態で確保されていれば、捜査機関の指示に従い放流や返還の可否を確認します。次に、その海域で漁業権を持つ漁業協同組合に対する謝罪と、資源への影響に対する金銭的な回復です。受領を拒まれることもありますが、その場合も申し入れの事実と内容を書面で残す意味があります。加えて、贖罪寄付という方法もあります。
さらに実務で効くのが、再発防止の仕組みを目に見える形にすることです。船会社や代理店が、寄港地での自然物の採取を禁じる指示を文書で出し、乗組員に周知し、その周知記録を提出する。船長が監督の責任を明示する。こうした資料は、ご本人の反省文よりも客観性が高く、検察官が「この人をもう一度同じ場所に置いても繰り返さない」と判断する材料になります。社会的な利益を守る規制であっても、その利益への影響を小さくする具体的な行動は、処分の選択に届きます。
在留と乗船への影響 どこまで心配すべきか
出入国管理及び難民認定法(入管法)は、退去強制の事由を24条各号に限定して列挙しています。刑事事件を起こせば直ちに強制送還される、という理解は正確ではありません。刑罰に着目した24条4号リは、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者を対象とし、ただし書によって全部執行猶予が付いた場合は除かれます。出入国在留管理庁の出入国管理統計(令和7年)によれば、退去強制令書が発付された7,722人のうち、4号リ単独を理由とするものは41人にとどまり、圧倒的多数は不法残留(4号ロ)の5,778人でした。罰金や起訴猶予で終わる事案が、この条文で直ちに退去強制につながるわけではありません。
他方で、影響がないわけでもありません。罰金であっても前科は記録に残り、その後の上陸審査や在留に関する審査で素行の評価として顧慮されることがあります。乗組員として上陸する場合の許可も、審査官の裁量に委ねられています。目標は、刑事の段階で処分をできるだけ軽い形に収めることに置かれます。ご家族と船会社にお願いしたいのは、①旅券と乗組員手帳の所在の確認、②出港予定と代替の連絡先の整理、③領事機関への通報を希望するかの本人の意思確認、④弁償の原資の準備、の四点です。勾留請求までは72時間しかありません。動くのは早いほど良いというのが実感です。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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