摘発から告発まで1年。税関の犯則調査という手続を知っておく
2026/09/01
税関で貨物や所持品を押さえられたのに、その日は逮捕されず、そのまま帰されることがあります。ご本人もご家族も、これで終わったのだろうと考えがちです。しかし密輸事件では、摘発から告発まで1年近くかかる例が現に存在します。その間、事件は終わっていません。この記事では、税関の犯則調査という手続の中身と、告発がいつどのように判断されるのか、そして待たされている間に在留資格をどう維持するのかという、きわめて現実的な問題を扱います。
摘発から告発まで約1年という現実
大阪税関の公表によれば、2018年6月21日、関西国際空港で金地金合計約33キログラムを分けて持ち込もうとしたとして、香港のグループ6名が関税法違反で大阪地方検察庁堺支部に告発されました。この事件では、摘発された時期から告発までに約1年を要したと整理されています。関係者が多く、資金の流れや通信の解析に時間がかかる事件では、このような期間はむしろ珍しくありません。以下は、この事例の細部ではなく、犯則調査という手続の一般的な説明です。
犯則調査とは何をする手続か
密輸事件の多くは、警察の捜査ではなく、税関職員による犯則調査から始まります。税関職員は、犯則の疑いがある事件について、質問し、物を検査し、任意に提出された物を領置することができます。必要な場合には、裁判官の許可状を得て捜索や差押えを行います。そして調査の結果、犯則があると判断したときに、検察官に告発します。告発は、単なる通報ではなく、事件を刑事手続に乗せるための正式な行為です。告発を受けた検察官は、必要な捜査を行ったうえで起訴か不起訴かを判断します。つまり、税関の段階と検察の段階という二つの関門があるということです。
告発の判断は何によって左右されるか
犯則の事実がどこまで固まったか、共犯者の関係が解明されたか、故意を裏づける資料が揃ったか。これらが中心です。加えて、同一の組織による他の事案との関係で、まとめて処理する方針が取られることもあります。当事者にとって重要なのは、この段階でも説明の機会があるという点です。任意の質問に対して、どこまで、どのように答えるかは、後の刑事手続の出発点になります。記憶が新しいうちに、経緯を時系列で整理し、手元の記録と突き合わせておくことをお勧めします。この段階で提出した書面や述べた内容は、告発とともに検察官へ引き継がれます。
待たされている間の在留資格という現実問題
身柄が拘束されていない場合、生活は続きます。ここで問題になるのが、在留期間の更新です。刑事処分がまだ確定していない段階では、素行についての最終的な評価も定まっていません。更新申請にあたって、調査を受けている事実をどのように説明するかは、慎重な判断を要します。虚偽の申請は在留資格の取消事由になり得ますから、事実に反する記載は絶対に避けなければなりません。また、勤務先を無断で離れて活動の実体がなくなると、在留資格に応じた活動を継続して3か月以上行っていないことを理由に、取消しの対象になり得ます。出入国在留管理庁の統計では、令和7年の在留資格取消件数は1,446件で、この事由が24.2%を占めています。
出国してよいのか、という質問
調査中に本国へ帰ってよいかというご質問をよく受けます。一律の答えはありません。任意の調査段階であっても、出国後に告発され、起訴された場合には、公判に出頭できない状態になります。日本の刑事訴訟法は、犯人が国外にいる間は公訴時効が停止すると定めており、時間の経過によって解決するものではありません。他方、業務上どうしても出国が必要な場合もあります。少なくとも、事前に弁護人に相談し、税関や検察官との連絡方法を確保したうえで判断してください。無断で出国し、連絡が取れなくなることが、最も不利な結果を招きます。
この期間にご家族ができること
第一に、記録の保全です。通信の履歴、送金の記録、渡航や配送に関する書類は、削除も加工もせずに残してください。第二に、在留期限と更新申請の時期の確認です。第三に、勤務先との関係の維持です。第四に、弁護人の選任です。告発の前後で対応の内容は変わりますが、早く関与するほど、説明の機会を有効に使えます。何も起きない期間が長いほど不安は募りますが、その間にできる準備は、確かに存在します。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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