「名義を貸しただけ」という主張は、輸入申告型の密輸事件で通るのか
2026/09/01
航空貨物や海上コンテナを使った密輸事件では、逮捕された方が「自分は名前を貸しただけだ」と述べることがよくあります。実際、輸入申告の名義人になっているだけで、貨物の中身も、誰が仕入れたのかも知らされていなかった、という事案は存在します。しかしこの主張は、そのまま述べても通りません。捜査機関は、申告の名義ではなく、貨物を実際に動かしていたのは誰かという実質から共犯関係を組み立てるからです。この記事では、輸入申告型の事件で何が争われ、名義貸しの主張がどのような資料によって支えられるのかを説明します。
この類型が現実にどのような形で現れるか
大阪税関の公表および読売新聞ほかの2026年7月8日の報道によれば、香港から到着した航空貨物の内部に板状の金を隠していたとして、中国籍の男性ら2人が関税法違反(無許可輸入未遂)などで告発され、逮捕・起訴されたと報じられています。貨物を用いる類型では、旅客が身につけて運ぶ場合と違い、輸入者、荷受人、通関を依頼した者など、複数の名前が書類の上に現れます。だからこそ、書類上の名前と実質的な行為者が一致しない場面が生じ、そこが主戦場になります。以下は制度の一般論です。
名義を貸しただけには二つの意味がある
この一言は、法的には全く異なる二つの主張を含んでいます。第一は、中身が金だとは知らなかった、犯罪の故意がないという主張です。第二は、中身は知っていたが、自分の役割は名前を出すことだけで、計画にも利益にも関与していないという主張です。前者は無罪を求める主張、後者は共犯の中での役割の軽さを訴える主張であり、必要な証拠も、取調べでの応答の仕方もまったく異なります。ここを整理しないまま同じ言葉を繰り返すと、否認しているのか認めているのか分からない調書ができあがり、双方にとって不利な結果になります。
捜査機関は何を見て実質的な主体を決めるか
第一に、通関業者とのやりとりです。誰が最初に連絡し、誰が指示を出し、誰が書類の内容を訂正したのか。電子メールや通信アプリの履歴は、そのまま役割の記録になります。第二に、費用の負担です。航空運賃、通関料、保管料を誰の口座から払ったのか。第三に、利益の帰属です。持ち込まれた貨物が国内で売却された場合、代金がどこに入ったのか。第四に、手配の細部です。荷受けの住所を誰が用意し、受け取りに誰が行ったのか。名義だけを貸したのであれば、これらのいずれにも本人が登場しないはずです。逆に一つでも本人が動いていれば、名義貸しという説明は維持しにくくなります。
名義貸しでも共犯になりうる、という前提
日本の刑事実務では、実行行為の一部を分担していなくても、犯罪の実現に重要な役割を果たしたと評価されれば共同正犯とされます。名義を提供することが、その貨物を通関に乗せるために不可欠であったと判断されれば、名義の提供それ自体が重要な寄与と評価されることがあります。したがって弁護は、名義を貸したから軽いという一般論ではなく、その名義がどのような経緯で使われ、本人がどこまで説明を受け、断る余地があったのかという具体的な事実を積み上げる形で行います。報酬の額と支払の時期は、認識の程度を推認させる事情として、ほぼ例外なく問題になります。
取調べでの受け答えが、後の量刑まで縛る
この類型で最も多い失敗は、早い段階で頼まれて名前を貸したとだけ答え、その後に事情を説明しようとして、供述が変わったと評価されることです。日本の刑事手続では、供述の変遷それ自体が信用性の判断材料になります。中国語の通訳を介する場合、知らなかったという説明と、気にしていなかったという説明の区別が、日本語の調書では曖昧になることもあります。取調べに弁護人は立ち会えませんが、事前に何をどう説明するかを弁護人と整理しておくことはできます。録音録画が行われている事件かどうかも、早い段階で確認すべき事項です。
在留資格への影響と、ご家族の準備
関税法違反で有罪となっても、それだけで直ちに退去強制事由になるわけではありません。分かれ目は、1年を超える拘禁刑の実刑かどうかです。役割が従属的であると認められれば、執行猶予の可能性が現実的に見えてきます。だからこそ、役割の切り分けは在留の問題に直結します。ご家族には、本人が貨物の手配に関与していないことを示す資料、たとえば同じ時期の勤務記録、通信履歴、費用を負担していない口座の記録などを、消さずに保全していただきたいと思います。身元引受けの体制や、日本での生活の実態を示す資料も、後の入管手続で意味を持ちます。
中文版:「只是借了名义」这种主张,在申报进口型走私案件里行得通吗
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
お問い合わせ:舟渡国際法律事務所(東京)/微信ID matsumura1119
この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
----------------------------------------------------------------------