金を隠して運ぶと、関税法だけでなく消費税法違反も付いてくる
2026/09/01
金の密輸事件は、報道では関税法違反の疑いとだけ短く伝えられます。しかし実際に検察官が組み立てる起訴事実は、関税法違反だけで終わらないことが少なくありません。輸入の際に納めるべき税を免れたという逋脱の罪が重ねられ、刑の枠が一気に広がります。この記事は、金の運搬に関わってしまった中国籍の方とそのご家族に向けて、なぜ罪名が増えるのか、増えるとどこが変わるのか、そして弁護人が最初に確認することは何かを説明します。数字は報道と税関の公表資料に基づき、年次と出典を明示します。
報道された事例と、その規模
大阪税関の公表と、読売新聞、MBSニュース、日本経済新聞の2026年7月8日の各報道によれば、令和7年2月に香港から到着した航空貨物の電気スタンドや充電器の内部に板状の金を隠して持ち込もうとしたとして、中国籍の男性ら2人が関税法違反(無許可輸入未遂)に加え、消費税法違反、地方税法違反で大阪地検堺支部に告発され、その後逮捕・起訴されたと報じられています。隠されていた金は、第一の事実が288個で約12キログラム、第二の事実が1,368個で約13キログラム、合わせて1,656個・約25キログラム、鑑定価格の合計は約3億6,323万円とされています。以下は、この報道から離れて、制度の一般的な説明に移ります。
なぜ金の密輸で税法違反が加わるのか
金地金を国外から日本に持ち込むと、輸入の時点で消費税と地方消費税が課されます。正規に申告して輸入すれば、この税を納めたうえで国内に入ります。ところが隠して持ち込めば、税を納めないまま国内の市場に金が出ることになります。国内で売却すれば買主から消費税相当額を受け取れますから、納めなかった分がそのまま利益になる。これが金の密輸に経済的な動機が生まれる仕組みです。したがって捜査機関は、無許可で輸入したという関税法の側面と、納めるべき税を免れたという税法の側面の両方を立件します。消費税法64条と地方税法72条の109が、この逋脱を処罰する規定です。
併科されると、刑の枠はどう広がるか
複数の罪が成立すると、それらは併合罪として一つの手続で処理され、刑の上限が引き上げられます。実務上より重要なのは、拘禁刑と罰金が同時に科されうるという点です。関税法の側では貨物の価格を基準に罰金額が定まり、逋脱の側では免れた税額を踏まえた罰金が問題になります。金額が大きい事件では、実刑と高額の罰金が並ぶ判決も想定しなければなりません。運搬に関わった本人が受け取った報酬が数十万円であっても、罰金の基準になるのは報酬ではなく貨物や税の額です。ここに、本人の実感と処罰の重さが大きくずれる原因があります。
三億円という数字が量刑で持つ意味
金額の大きさは、量刑を左右する中心的な事情になります。ただし弁護の側から見れば、金額は事件全体の規模であって、被告人一人が引き受けるべき責任の大きさとそのまま同じではありません。誰が資金を出したのか、誰が仕入先と交渉したのか、誰が貨物の仕立てと発送を手配したのか、誰が通関の手続を担当したのか、誰が国内で売却したのか。役割は分かれているのが通常です。全体の金額に押し流されず、本人が現に担った部分と、そこから得た利益を具体的に示すこと。これが、この類型でもっとも実質的な弁護活動です。共犯者の供述だけが根拠になっている部分がないかも、丁寧に検討する必要があります。
在留資格にどう跳ね返るか
関税法違反は、薬物のように有罪だけで退去強制事由となる類型ではありません。分岐点は、1年を超える拘禁刑の実刑になるかどうかです。法務省『令和7年版犯罪白書』によれば、令和6年の関税法違反の起訴率は、来日外国人で76.21%、全体で66.92%であり、罪名別に見て高い部類に入ります。起訴を前提とした準備が必要だという意味です。他方、出入国在留管理庁の出入国管理統計(令和7年)では、1年超の実刑を理由とする退去強制令書の発付は単独で年間41人(うち中国籍11人)にとどまり、不法残留による発付5,778人とは桁が違います。刑事事件になったら直ちに送還される、という理解は正確ではありません。実刑の期間をどこで止めるかが、そのまま在留の分かれ目になります。
ご家族が最初にすべきこと
身柄を取られた直後は、本人と連絡が取れません。まず、旅券と在留カードの所在、在留期限、勤務先との雇用契約の状況を確認してください。貨物の手配に使った通信記録や、費用を負担した口座の履歴は、後に役割を説明する資料になります。消去せず、そのまま保全してください。罰金が科される可能性がある事件では、納付の原資をどう用意するかも早い段階から検討します。そして、通訳を介した取調べでは、金額や個数について本人の記憶があいまいなまま調書が作られやすいことに注意してください。弁護人が就いたら、まず取調べでどこまで話したのかを確認することになります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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