同じ「薬物事件」でも、罪名が違えば在留の結末は正反対になります
2026/09/01
薬物に関わる事件を、ひとまとめに「薬物事件」と呼んでしまうと、大事な分かれ目を見落とします。日本の入管法は、退去強制事由の一つとして特定の法律の違反を列挙しており、そこに入るかどうかで結論が正反対になるからです。この記事では、報道された二つの事案を並べ、指定薬物(医薬品医療機器等法)と麻薬(麻薬及び向精神薬取締法)とで、在留への影響がどう違うのかを整理します。
二つの事案を並べる
第一に、指定薬物であるエトミデートの密輸に関する事案です。読売新聞やFNN、大分朝日放送などの報道によれば、2025年10月10日に関東地方在住の中国籍の男性3名が医薬品医療機器等法違反の疑いで摘発され、インドから粉末約100グラムを輸入したとされています。うち二件について、大分地方裁判所は2025年12月19日と2026年1月9日に、いずれも拘禁刑2年6月・執行猶予4年(求刑同)の判決を言い渡したと報じられています。判決は、薬物の注文など不可欠な役割を果たしたとして、役割分担の組織性と利益目的を指摘したとされています。
第二に、大麻に関する事案です。沖縄タイムスの2025年12月11日の報道および沖縄地区税関の公表によれば、タイから台湾を経由して那覇空港に到着した台湾籍の男性と中国籍の女性について、衣類のポケット内から麻薬である大麻2.85グラムと、THCを含有する液状物10.73グラムが発見され、関税法違反(輸入してはならない貨物の輸入未遂)の疑いで那覇地方検察庁に告発されたとされています。いずれも起訴・有罪が確定したことを前提とする記述ではなく、被疑者・被告人には無罪推定が及びます。
入管法24条4号チが列挙している法律
退去強制事由のうち薬物に関するものは、覚醒剤取締法、麻薬及び向精神薬取締法、大麻草の栽培の規制に関する法律、あへん法、麻薬特例法等の違反を対象としています。この事由の恐ろしいところは、有罪判決があれば足りるという点です。刑が罰金であっても、執行猶予が付いていても、刑の免除であっても該当し、在留資格が別表第一(就労・留学等)か別表第二(永住者、日本人の配偶者等、定住者等)かも問いません。他の退去強制事由と違って、刑の重さによる線引きがないのです。
指定薬物は、この列挙に入っていない
エトミデートのような指定薬物は、医薬品医療機器等法によって規制されています。この法律は、24条4号チが挙げる法律のいずれでもありません。したがって、指定薬物に関する罪で有罪となっても、それだけでは同号の退去強制事由に当たりません。この場合、退去強制事由に該当するかどうかは、入管法24条4号リ、すなわち無期または1年を超える拘禁刑に処せられたかどうかで判断されます。同号のただし書により、全部執行猶予が付いた場合は除かれます。先ほどの大分地方裁判所の判決が拘禁刑2年6月・執行猶予4年であったとすれば、4号リには当たらないという整理になります。
結論が正反対になる、ということの意味
大麻の事案では、たとえ量が数グラムで、刑が罰金や執行猶予にとどまったとしても、24条4号チに該当します。さらに入管法5条1項5号により、上陸拒否には年限の定めがありません。他方、指定薬物の事案では、執行猶予が付けば退去強制事由には当たらず、在留を続ける可能性が残ります。押収された量も、報道の見出しの大きさも、この違いを教えてくれません。罪名の欄を見なければ分からないのです。
ただし、指定薬物なら安全という意味ではない
退去強制事由に当たらないことと、在留期間の更新が許可されることは別です。更新の審査では、素行が善良であることが求められ、有罪判決を受けた事実は消えません。組織的な関与や利益目的が判決で指摘されていれば、なおさら厳しく評価されます。また、在留資格に応じた活動を続けているか、就労先が継続しているかも問われます。有罪判決の後に退職や退学に至ると、資格の基礎そのものが失われます。刑事の結論が出た時点で、更新申請に向けた説明の準備を始める必要があります。
弁護活動として何をするか
まず、罪名の確定です。押収物の鑑定結果と、適用される法律を確認します。指定薬物と麻薬では、規制の根拠法が異なり、量刑の枠組みも異なります。次に、営利目的や組織的関与が認定されるかどうかの検討です。ここが量刑と、その後の更新審査の双方に効きます。そして、量刑を1年以下に収める、あるいは執行猶予を得るという目標を、4号リの基準を意識して設定します。刑事の目標設定を入管の基準から逆算する、という発想が要ります。
ご家族が確認すること
逮捕状や起訴状に書かれた罪名を、正確に控えてください。「薬物」ではなく、どの法律の違反かが決定的です。次に、本人の在留資格の種類と在留期限を確認してください。更新の時期が迫っている場合、刑事手続の進行と重なることがあります。そして、勤務先や学校との関係を維持できるかどうかを早めに検討してください。刑事の結論が良くても、資格の基礎が消えていれば在留は続きません。
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舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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