密輸事件で、役割の違いは刑にどれだけ反映されるのか
2026/09/01
同じ薬物事件でも、手配した人、運んだ人、受け取った人、保管した人では、責任の重さが異なります。ところが捜査の初期には、全員が「共謀の上」という同じ表現でくくられます。ここから、自分の関与を客観的資料で限定していく作業が、この類型の防御の中心になります。この記事では、報道された三つの事例を並べて、役割の違いがどのように現れるのかを整理します。
三つの事例を並べる
第一に、朝日新聞が2023年6月7日に報じた事案では、東京港のコンテナ貨物から覚醒剤約700キログラムが押収され、中国籍の男女7人が摘発されたとされています。第二に、新潟日報が2025年12月5日に報じた事案では、国際郵便等を利用してミャンマーから覚醒剤約5.4キログラムを輸入したとして中国籍の男性が起訴され、本人は共謀と中身の認識を否認しましたが、新潟地方裁判所の裁判員裁判で「懲役13年・罰金500万円」(求刑は懲役18年)の判決が言い渡されたと報じられています(判決当時の表記。令和4年改正刑法により現在は拘禁刑に一本化されています)。この事案は薬物以外の罪も併せて審理されたものです。第三に、読売新聞が2023年1月31日に報じた事案では、集合住宅の空き室に覚醒剤約1キログラムを隠して所持したとして、中国籍の男性が営利目的共同所持と邸宅侵入の疑いで摘発されたとされています。いずれも起訴・有罪が確定したことを前提とする記述ではなく、被疑者・被告人には無罪推定が及びます。
量の多さが、そのまま役割の重さを示すわけではない
貨物を用いた大量の密輸では、資金を出した者、貿易上の名義を用意した者、通関を手配した者、荷を受け取る者、保管場所を用意する者と、役割が細分化されます。押収量は組織全体の数字であり、個人の関与の程度とは別の話です。他方で、量が多いほど営利目的が推認されやすく、その推認は個々の関与者にも及びます。そのため弁護側は、量そのものではなく、自分の関与が及ぶ範囲を示す資料に注力します。
運搬役の防御は「知っていたか」に集中する
郵便や航空貨物、手荷物による運搬の事案では、中身についての認識が中心の争点になります。荷を預かった経緯、依頼者との関係、報酬の有無、渡航費用の負担者、行程の不自然さから故意が推認される構造があるため、その一つひとつに別の合理的説明を用意します。ここで、否認しつつ供述が変遷すると、変遷したこと自体が不利に働きます。
受領役・保管役では「事実的支配」が争点になる
部屋に薬物が置かれていた事案では、その部屋を実際に支配していたのは誰かが問われます。鍵を持っていたのは誰か、出入りの頻度はどうか、賃貸借契約の名義は誰か、指紋やDNAはどうか、といった事情が積み上げられます。「名義を貸しただけ」「頼まれて荷物を受け取っただけ」という説明は、それ自体としては珍しくありませんが、客観的資料と結び付けなければ通りません。荷受けの報酬額、依頼の方法、受け取った回数は、故意の程度を示す資料として双方から使われます。
役割の限定は量刑段階でこそ効く
薬物の輸入・所持は、営利の目的の有無で法定刑の枠組みが変わります。したがって、故意そのものを争う事案でも、予備的に営利目的を否定する構成を検討します。収益の分配に関与していないこと、荷の行き先を知らされていないこと、指示に従うだけの立場であったことは、量刑上の主張として意味を持ちます。統計として、被告人通訳事件の科刑状況を見ると、令和6年(2024年)の有罪人員4,388人のうち全部執行猶予は全罪名で85.3%、入管法違反を除くと74.8%でした(法務省『令和7年版犯罪白書』)。ただし、これは全罪名を含む数字であり、薬物の輸入事案がこの傾向にあてはまるわけではありません。
在留資格への影響は役割で変わらない
ここが重要です。刑の重さは役割で変わりますが、入管法24条4号チの退去強制事由に当たるかどうかは、有罪判決があるかどうかで決まります。執行猶予でも罰金でも該当し、在留資格の種類も問いません。役割を限定して量刑を軽くする活動は、それ自体として大きな意味がありますが、それによって在留が保たれるわけではないという点を、最初にご説明しています。
ご家族が準備できること
本人の関与の範囲を示す資料を集めてください。勤務実態、住居の契約名義、通信の履歴、金銭の入出金、渡航の記録です。次に、日本国内の身元引受人と住居を確保してください。起訴後の保釈請求で使いますし、刑事の後に続く入管手続でも同じ資料が必要になります。そして、共犯者とされる方々のご家族と、本人の説明をすり合わせる相談は避けてください。罪証隠滅を疑われ、身柄拘束が長引く原因になります。
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舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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