観光で来日中に薬物事件になると、上陸拒否に年限がつかない理由
2026/09/01
短期滞在(観光)の在留資格で日本に入り、空港や港の検査で薬物を見つけられて身柄を拘束される。ご家族にとっては、帰国便の時刻しか知らされていなかった相手と、突然連絡が取れなくなる出来事です。この記事では、観光客が薬物事件の当事者になったとき、刑事処分そのものよりも長く残る「上陸拒否」という問題を説明します。日本の上陸拒否には1年、5年、10年という年限のあるものと、年限の定めが置かれていないものがあり、薬物は後者に属します。ここを知らないまま処分を受け入れると、後から取り返しがつきにくくなります。
クルーズ船の客室から覚醒剤が見つかった事例
長崎税関が公表した平成29年(2017年)の事例では、長崎県の港に入港したクルーズ船の客室から覚醒剤約6グラムが発見され、中国籍の男性1名が関税法違反の疑いで長崎地方検察庁に告発されたとされています(長崎税関公表資料)。告発の段階であり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。量としては大量密輸の事案とは比較にならない少なさですが、後で述べるとおり、入管法上の扱いは量では変わりません。
客室が複数人で使われていた場合、まず争うのは「誰の物か」
船室やホテルの客室、レンタカーの車内など、複数の人が出入りする空間から薬物が出てきた事案では、所持していたのが誰かという点そのものが争点になります。弁護人は、客室の名義と実際の使用者、キーカードの受渡し、荷物の所有関係、指紋やDNAの鑑定結果、同室者の供述の変遷を一つずつ確認します。ここで「同室者がいた」「荷物は自分のものではない」という主張は、思いつきで述べても通りません。乗船名簿、船内の決済記録、写真の撮影時刻など、客観的な資料と結び付けて初めて意味を持ちます。取調べの早い段階で誤った説明をしてしまうと、後から訂正するのは難しくなります。
上陸拒否には「年限のあるもの」と「年限のないもの」がある
日本から退去した外国人が再び入国できない期間は、事由ごとに定められています。出国命令によって出国した場合は1年、退去強制を受け前歴がない場合は5年、前歴がある場合は10年、というのが入管法5条1項9号の枠組みです。ところが薬物に関する上陸拒否事由は同条1項5号に置かれており、ここには年限の定めがありません。つまり、期間が経てば自動的に解けるという構造になっていないのです。しかも同号は、罰金にとどまった場合でも、また日本国外の法令に違反した場合でも該当し得る書き方になっています。刑が軽ければ入国できる、という理解は誤りです。
再び日本に入るには上陸特別許可を求めるほかない
年限がない以上、再入国を目指すなら、入管法12条1項の上陸特別許可を求めることになります。これは法務大臣の裁量による個別判断であり、上陸審査の場で在留の必要性、日本との結び付き、事案からの年数、その後の生活状況を具体的な資料で示す必要があります。観光目的での再入国は、この枠組みでは説明が難しい部類に入ります。日本に配偶者や子がいる、事業上の必要が継続している、といった事情がなければ、実務上の見通しは楽観できません。逆に言えば、日本との結び付きがある方ほど、刑事段階での結論が将来の全てを左右します。
刑事の結論と入管の結論は別々に進む
薬物事犯は、入管法24条4号チという退去強制事由に直結します。この事由は有罪判決があれば足り、罰金でも執行猶予でも、また在留資格が別表第一か別表第二かを問わず該当します。刑事裁判で執行猶予を得ても、それは日本に残れることを意味しません。短期滞在の方の場合、刑事手続が終わった後に入管の収容施設へ移され、そこから退去強制手続が始まるという流れが一般的です。ここで弁護人が刑事だけを見て手を引くと、入管段階で何の準備もないまま結論が出てしまいます。
ご家族が最初にすべきこと
まず、拘束された場所(どの空港・港か、どの警察署か)と、逮捕の日時を確認してください。この二つが分かれば弁護人は接見に行けます。次に、旅券と在留カードに相当する上陸許可の記録、航空券・乗船券、旅行の同行者の氏名と連絡先、日本国内の滞在先を手元にまとめてください。宿泊予約や荷物の受取記録は、後に「誰の荷物か」を示す資料になります。ご本人が中国語しか話せない場合は、通訳人を付けた取調べを求めること、そしてウィーン領事関係条約36条1項に基づく領事機関への通報を希望するかどうかを、早い段階で伝える必要があります。日本には起訴前の保釈制度がないため、起訴されるまでの身柄拘束は原則として続きます。帰国便の変更や勤務先への説明は、刑事手続の見通しが立ってから行うのが安全です。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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