名宛人と実際の関与者が違う 「住所を貸しただけ」という主張は通るのか
2026/08/31
薬物の輸入事件では、貨物の名宛人、部屋の賃貸借契約の名義人、現実に荷物を受け取った人が、それぞれ別人であることが珍しくありません。そのため、ご本人が「住所を貸しただけで、中身は知らない」と述べる事案が実際に生じます。この主張は、内容によっては十分に成り立ちますが、述べ方を誤ると、かえって関与を認めた供述として扱われます。この記事では、報道された事例を手がかりに、名義と実態がずれている事案の構造と、配送記録や鍵の管理をどう使って争うのかを説明します。
報道された事例 オマーンから所沢市宛ての航空貨物
埼玉新聞の報道(2023年8月29日)によれば、東京都内の飲食店に勤務していた中国籍の40代の男性が、オマーンから発送された航空小口急送貨物により覚醒剤1205.31グラム(末端価格7440万円相当とされます)を営利の目的で輸入しようとしたとして、覚醒剤取締法違反の疑いで逮捕されたと報じられています。認否は公表されていません。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。この種の事件では、逮捕状の被疑事実が「氏名不詳者らと共謀の上」という形で構成されることが多く、共謀の相手方が特定されないまま手続が進みます。
「氏名不詳者らと共謀の上」という記載の意味
共犯者が特定されていないという記載は、捜査機関にとって便利である一方、防御の側から見ると重要な手がかりでもあります。誰と、いつ、どのような内容の合意をしたのかが特定されていないのですから、弁護人は、共謀の成立を基礎づける具体的事実の提示を求めることができます。実務上は、依頼の経緯、報酬の約束、荷物の到着予定の告知、受領後の引渡方法の指示といった要素のうち、どこまでが証拠で裏づけられているのかを一つずつ確認していきます。全体像が漠然としたまま「関与していた」という印象だけで進むことを防ぐのが、初期段階の弁護活動の核心です。
名義と実態がずれる三つの類型
ずれ方には型があります。第一に、部屋の契約者と居住者が異なる型です。同郷の知人が来日した際に自分の名義で部屋を借りてあげた、という経緯は現実によくあります。第二に、貨物の名宛人だけを貸した型です。日本語の書類が読めない知人に代わって受け取りの名義になった、というものです。第三に、受領行為だけを担った型で、報酬を受けて荷物を受け取り、指定された場所に届けたというものです。どの型であるかによって、争うべき事実も、示すべき資料も違ってきます。まず自分がどの型なのかを整理することが出発点になります。
配送記録で何が分かるのか
配送業者の記録は、この類型で最も客観性の高い資料です。誰が受け取りに署名したのか、不在票が入った時刻はいつか、再配達の依頼は誰の連絡先からされたのか、営業所での受け取りだったのか。これらは、当事者が受領の段取りにどこまで関与したかを示します。名義だけを貸したという主張が成り立つのは、受け取りの実行過程に当事者が現れていない場合です。逆に、再配達の日時を自分で指定していたり、荷物の追跡を繰り返し確認していたりすると、名義貸しにとどまらないという評価に傾きます。記録は保存期間が限られますので、弁護人を通じた早期の照会が要ります。
鍵の管理と部屋への出入り
部屋が絡む事案では、鍵をいくつ作ったか、誰が持っていたか、オートロックの解錠履歴、防犯カメラの映像、電気やガスの使用量が、事実上の支配の有無を判断する材料になります。契約名義人であっても、鍵を他人に渡し、自分は長く立ち入っていないという実態があれば、その部屋にあった物についての支配は否定される方向に働きます。管理会社の入退去記録や、共用部の映像は上書きで消えていきますので、早い段階で保全を求める必要があります。ご家族が管理会社に問い合わせる場合も、記録の保存を依頼する旨をはっきり伝えてください。
言い方を誤ると不利になる場面
「住所を貸しただけ」という説明は、それ自体としては関与の限定を意味しますが、続けて「違法なものかもしれないとは思った」と述べてしまうと、未必の故意を認めたと受け取られます。取調べでは、断片的な言葉が調書に固定され、後から訂正することが難しくなります。言い分の全体像が整理できていない段階では、供述を急がず、弁護人と方針を決めてから話すという選択が現実的です。通訳が入る取調べでは、微妙な言い回しほど訳出でずれが生じますので、調書の読み聞かせの際には、訳文の内容を丁寧に確認してください。
在留資格への影響とご家族の準備
覚醒剤取締法違反の有罪は、刑の重さや在留資格の種類を問わず、入管法24条4号チの退去強制事由になります。無罪や不起訴を得られるかどうかが、そのまま在留の帰趨を決める構造です。ご家族としては、賃貸借契約書、鍵の受渡しに関するやり取り、荷物の受け取りを頼まれた際の通信記録、報酬の授受を示す送金履歴を、消さずに保存してください。とりわけ携帯端末のやり取りは、削除すると証拠隠滅を疑われるおそれがある一方、残っていれば関与の限界を示す資料にもなります。取扱いは必ず弁護人に相談してから決めてください。
中文版:收件人与实际关系人不同:“只是借了地址”这一主张能否成立
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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