「中身が覚醒剤だとは知らなかった」と争った事件。故意はどう認定されたか
2026/08/31
薬物の輸入事件で最も多い争い方は「中身が薬物だとは知らなかった」というものです。荷物を受け取った、住所を貸した、渡された封筒を届けた。行為自体は認めても、中身の認識がなければ罪は成立しません。しかし、故意は本人の頭の中の事実ですから、直接に証明することはできません。検察官は、外側にある事実を積み上げて、知らなかったはずがないと推認させます。この記事では、報道された否認事件を素材に、その組み立てを分析します。
報道された事案
新潟日報およびUX新潟テレビ21の報道によれば、ミャンマーから国際郵便などを用いて覚醒剤約5.4キログラム(新潟県内の押収量として過去4番目とされます)を輸入したなどとして、覚醒剤取締法違反(営利目的輸入)等に問われた東京都葛飾区で麻雀店を経営する30歳の中国籍の男性について、令和7年10月29日に新潟地裁で裁判員裁判の初公判が開かれ、被告人は「共謀してミャンマーから輸入しようとしていない。郵便物の中身が覚醒剤だとは分からなかった」と述べて否認しました。同年12月5日、新潟地裁は懲役13年・罰金500万円(求刑懲役18年)を言い渡したと報じられています(判決当時の表記。令和4年改正刑法により現在は拘禁刑に一本化されています)。検察官は、被告人が受け取りや回収の取りまとめ役であったという役割から故意を推認したとされます。
検察官が積み上げる間接事実
否認事件で検察官が示すのは、おおむね次のような事実です。第1に、報酬です。中身が分からない荷物を受け取るだけで通常では考えられない報酬が支払われていれば、その不自然さ自体が認識を推認させます。第2に、行為の反復です。一度きりではなく複数回にわたって同種の荷物を扱っていれば、偶然の説明が難しくなります。第3に、連絡の方法です。暗号めいた言い換え、通信アプリの履歴の即時削除、複数の端末や名義の使い分けは、後ろめたさの表れと評価されます。第4に、荷物の外形です。梱包の異常な厳重さ、申告品目と実際の重量の乖離。第5に、役割の位置です。複数の受取先を取りまとめ、他の関与者に指示していれば、単なる運び役という説明と整合しません。
弁護側は何を集めるのか
故意を争うときの反証は、否定の言葉ではなく、具体的な事実の提示です。依頼を受けた経緯を裏づける当時のやり取り、報酬の水準が日常の労務の対価として説明できる資料、荷物の受取が本人の生活圏の延長で自然に説明できる事情、そして中身を確認しなかったことに本人なりの理由があること。逆に、捜査機関が示す間接事実の一つひとつについて、別の説明が成り立つかを検証します。取りまとめ役だったという評価に対しては、実際の連絡の方向、報酬の分配、意思決定の所在を証拠で示して反論します。
否認は量刑にどう影響するか
否認したこと自体を理由に刑を重くすることは許されません。しかし、事実を認めた事件で通常評価される反省や被害の回復といった有利な事情が積み上がらないため、結果として刑が重くなる傾向はあります。報じられた事案では、求刑よりは軽い刑が言い渡されています。争うかどうかは、有罪となった場合の刑の見込みと、無罪となる可能性の双方を、証拠の内容を踏まえて具体的に検討したうえで決めるべきものです。弁護人から証拠の開示状況の説明を受けないまま、感情で方針を決めないでください。
取調べで気をつけること
覚醒剤取締法違反で有罪となれば、入管法24条4号チにより刑の軽重を問わず退去強制事由に当たります。したがって、この類型では起訴前の段階の意味が極めて大きくなります。取調べでは、記憶にないことを認めないでください。通訳を介した供述は、日本語の調書に翻訳されて残ります。中国語で述べた微妙な言い回しが、日本語では断定的に記載されることがあります。調書に署名する前に、通訳人に読み上げてもらい、違うと感じたら訂正を求めてください。訂正を求めたこと自体が記録に残ります。
実刑が確定した後に始まること
実刑が確定すると、刑の執行を終えた後に入管の手続に移ります。収容令書による収容または監理措置の決定を受けた段階で、在留特別許可の申請が可能になります。それ以前は職権の発動を求める活動になります。日本に配偶者や子がいる場合には、家族関係、在日期間、生計、本人の更生の状況を資料で示すことになります。服役中から準備できることは多く、家族との面会記録、通信、就労意欲を示す資料は、後の手続で意味を持ちます。
中文版:主张“不知道里面是兴奋剂”的案件,故意是如何被认定的
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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