覚醒剤700キロの密輸事件。営利目的の輸入という罪はどれほど重いのか
2026/08/31
薬物の密輸事件のうち、量が数百キログラムに及ぶものは、量刑の枠組みそのものが日常的な感覚から離れます。ご家族から「知り合いに頼まれて荷物を受け取っただけなのに、なぜ裁判員裁判なのか」と尋ねられることがあります。この記事では、報道された大規模な密輸事案を手がかりに、営利目的の輸入という罪がどのような法定刑の枠組みに置かれているのか、共犯者が複数いる事件で役割分担がどう扱われるのか、そしてご家族が最初に何をすべきかを説明します。
報道された事案の概要
朝日新聞の令和5年6月7日の報道によれば、東京港に到着したコンテナ貨物から覚醒剤約700キログラム(末端価格約434億円相当)が押収され、警視庁が20代から50代の中国籍の男女7人を覚醒剤取締法違反(営利目的の密輸)の疑いで逮捕したとされます。当時としては過去2番目の押収規模と報じられました。逮捕は捜査の一段階にすぎず、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。以下は、この報道を出発点とした一般的な制度の説明です。
営利目的の輸入という罪の枠組み
覚醒剤の輸入は、国内での所持や使用と比べて格段に重く扱われます。さらに、営利の目的が認定されると、法定刑の枠組みが一段上がり、無期の拘禁刑を選択できる範囲に入ります。罰金を併科することもできます。法定刑に無期を含む重大な罪であるため、公判は裁判員裁判として行われます。法務省の令和7年版犯罪白書によれば、令和6年に通訳を要する被告人の通常第一審で有罪となった4,388人のうち、無期は4人、拘禁刑3年を超える実刑は282人でした。全体の全部執行猶予率は85.3%と高いのですが、これは入管法違反事件が多数を占めるためで、入管法違反を除くと74.8%になります。大規模な薬物密輸は、この統計の中でも最も重い層に位置します。
押収量は量刑にどう効くのか
薬物事件の量刑では、押収された量が出発点になります。量が多いほど、社会に流通した場合の害が大きいと評価されるからです。しかし、量だけで刑が決まるわけではありません。組織の中でどの位置にいたか、報酬をどれだけ得たか、関与が継続的か一回限りか、前科の有無、そして故意の程度が総合されます。数百キログラムという規模の事案では、量そのものについて争う余地は乏しく、弁護活動の中心は、故意の有無と役割の限定に移ることが多くなります。
共犯が7人いるとき、何が起きるか
共犯者が複数いる事件では、それぞれが自分の役割を軽く説明しようとします。その結果、供述が食い違い、捜査機関は客観証拠を軸に全体像を組み立てます。ここで重要なのは、他の共犯者の供述に引きずられないことです。また、共犯者間で連絡を取ろうとすると、罪証隠滅のおそれがあるとして、勾留が長引き、接見禁止が付き、量刑でも不利に評価されます。ご家族が関係者に連絡することも同じ危険を招きます。警察庁の令和6年における組織犯罪の情勢によれば、令和6年中の来日外国人による刑法犯の共犯事件率は41.1%で、日本人の12.5%の約3.3倍でした。共犯事件は、外国人の刑事事件では珍しくない類型です。
在留への影響
覚醒剤取締法違反で有罪となれば、入管法24条4号チにより、刑の軽重を問わず退去強制事由に該当します。実刑であれば、刑の執行を終えた後に入管の手続に移ります。さらに、薬物に関する上陸拒否事由には年限の定めがなく、いったん該当すれば、その後の再入国は上陸特別許可によるほかありません。日本に家族がいる場合、在留特別許可を求める道はありますが、出入国管理統計によれば令和7年の在留特別許可は年間1,030人で、退去強制令書の発付は7,725人でした。可能性は存在しますが、資料を尽くして初めて土俵に乗るという理解が必要です。
ご家族が最初にすべきこと
第1に、弁護人の接見を最優先で手配してください。接見禁止が付いても弁護人との接見は制限されません。第2に、本人の携帯端末や通信記録に手を触れないでください。第3に、本人が来日した経緯、渡航歴、日本での就労と収入、負債の有無を、家族の側で時系列に整理してください。故意や役割を検討するうえで、これが基礎資料になります。第4に、日本語ができない場合の通訳の手配を確認してください。取調べの通訳と、弁護人との打合せの通訳は別です。第5に、本人が希望すれば、領事関係に関するウィーン条約に基づいて領事機関への通報が行われます。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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