「注文をした役」も不可欠と評価される。薬物事件で役割分担をどう争うか
2026/08/31
薬物の密輸事件で「自分はただ注文しただけだ」「言われたとおりに住所を貸しただけだ」と説明される方は少なくありません。ところが判決では、その役割こそが不可欠だったと評価されることがあります。報道された事案でも、大分地裁は被告人が薬物の注文をするなど不可欠な役割を果たしたと指摘したとされます。この記事では、裁判所が役割の軽重をどう見ているのか、そして従属的な立場だったと主張するために何を集めるべきかを、ご家族にもできる作業に落として説明します。
裁判所は「役割」を何で測っているか
読売新聞、FNN、大分朝日放送などの報道によれば、インドから指定薬物エトミデートの粉末約100グラムを輸入したとして医薬品医療機器等法違反に問われた20歳代の中国籍の男性について、大分地裁は令和7年12月19日と令和8年1月9日に、それぞれ拘禁刑2年6月・執行猶予4年の判決を言い渡したと報じられています。報道では、裁判所が役割分担の組織性と利益目的を指摘したとされます。裁判所が見ているのは、行為の外形的な軽重ではなく、その人がいなければ計画が成り立ったかどうかです。注文は、荷物を運ぶ行為よりも身体的な負担が軽く見えますが、供給元との接続点であり、代替が利きにくい。だからこそ重く評価されます。
「上に言われただけ」がそのままでは通らない理由
取調べで「知り合いに頼まれただけです」と述べても、それ自体は供述にすぎません。捜査機関は、通信アプリの履歴、送金の記録、宿泊や渡航の履歴、配送伝票、押収された端末の中身といった客観的な資料を並べて、指示が一方通行だったのか、それとも本人にも裁量があったのかを判断します。したがって、従属性を主張するのであれば、供述ではなく資料でそれを示す必要があります。
従属性を示す資料は、どこにあるか
第1に、通信の履歴です。指示が一方的に流れているか、本人が価格や数量を提案していないか、断ろうとした形跡があるかを、日時順に並べます。削除されていても、相手方の端末や関係者の証言から復元できる場合があります。第2に、金銭の流れです。報酬が固定額の小額だったのか、利益の分配を受ける立場だったのかは、量刑上の意味がまったく違います。銀行口座、電子決済、送金アプリの記録を弁護人に渡してください。第3に、時間軸です。関与が全期間なのか、末期の一部だけなのか。渡航記録、勤務先のシフト表、家賃や公共料金の支払記録が、関与時期を限定する材料になります。第4に、生活状況です。借金や失職といった経済的な追い込まれ方は、犯行に至る経緯を説明する事情になります。
報酬と関与期間を限定するという作業
弁護活動では、起訴された事実そのものを争えない場面でも、事実の輪郭を正確に縮める作業が量刑を動かします。たとえば、検察官が「継続的に関与した」と主張するとき、実際に確認できる連絡が特定の2週間に集中しているなら、その点を証拠で示す。報酬について「多額の利益を得た」とされるとき、口座に入った金額と実際に費消した内容を突き合わせる。こうした一つひとつは地味ですが、組織の中枢か周辺かという裁判所の心証を左右します。
やってはいけないこと
第1に、家族が関係者に連絡して口裏を合わせようとすることです。罪証隠滅とみなされ、勾留や接見禁止が長引くだけでなく、量刑でも決定的に不利になります。第2に、端末やSNSのデータを消すことです。有利な履歴まで失われます。第3に、取調べで、記憶にないことを役割の軽減と引き換えに認めることです。後から覆すのは極めて困難です。分からないことは分からないと述べ、弁護人と相談してから答えるという態度を貫いてください。
役割の認定は、在留にも波及する
役割の評価は刑の重さを通じて在留に跳ね返ります。指定薬物のように入管法24条4号チの列挙罪名に含まれない罪であれば、退去強制事由に当たるかは同条4号リ、すなわち無期又は1年を超える拘禁刑の実刑かどうかで判断され、全部執行猶予は除外されます。実刑と執行猶予の境目に立つ事案では、役割の主張がそのまま在留の帰趨を決めることになります。ご家族は、身元引受書、勤務先の受入れ表明、住居の確保といった、判決後の生活基盤を示す資料を早い段階から準備してください。
中文版:“下单的角色”也被认定为不可或缺。毒品案件中如何争辩分工
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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