舟渡国際法律事務所

指定薬物の事件は、薬物の退去強制事由に当たらない。罪名の違いが在留を分ける

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指定薬物の事件は、薬物の退去強制事由に当たらない。罪名の違いが在留を分ける

指定薬物の事件は、薬物の退去強制事由に当たらない。罪名の違いが在留を分ける

2026/08/31

指定薬物を輸入したとして医薬品医療機器等法違反に問われた中国籍の方に、大分地裁が執行猶予付きの判決を言い渡したことが報じられました。ご本人やご家族が最初に心配されるのは「薬物の事件なのだから、もう日本にはいられないのではないか」という点だと思います。結論から申し上げると、指定薬物の事件は、覚醒剤や大麻の事件とは在留の扱いが根本的に異なります。この記事では、罪名の違いがなぜ在留の帰趨を分けるのか、そして執行猶予がついた後に何が残るのかを、報道された事案に即して整理します。

報道された事案の概要

読売新聞、FNN、大分朝日放送などの報道によれば、令和7年10月10日、インドから指定薬物エトミデートの粉末約100グラムを輸入したとして、関東地方に住む20歳代の中国籍の男性3人が医薬品医療機器等法違反の疑いで逮捕されました。大分地裁は、令和7年12月19日と令和8年1月9日に、それぞれ拘禁刑2年6月・執行猶予4年(いずれも求刑と同じ)の判決を言い渡したと報じられています。裁判所は、被告人が薬物の注文をするなど、この密輸において不可欠な役割を果たしたと指摘したとされます。弁護人は控訴しない方針と報じられました。なお、報道の時点で処分が確定していない関係者については、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。

指定薬物は、どの法律で規制されているのか

エトミデートのような指定薬物は、医薬品医療機器等法(かつての薬事法)が規制しています。覚醒剤取締法、麻薬及び向精神薬取締法、大麻草の栽培の規制に関する法律、あへん法といった、いわゆる薬物法令とは別の法律です。日常の会話でも報道でも「薬物事件」と一括りにされますし、捜査を担当するのが麻薬取締部であることも多いので、当事者の側から見れば区別がつきません。しかし、入管法の世界では、この法律の違いが決定的な意味を持ちます。

入管法24条4号チの列挙に、医薬品医療機器等法は入っていない

出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号チは、覚醒剤取締法、麻薬及び向精神薬取締法、大麻草の栽培の規制に関する法律、あへん法、麻薬特例法などの違反で有罪となった外国人を、退去強制事由として掲げています。この規定が薬物事件の最大の急所とされるのは、刑の重さをまったく問わないからです。罰金でも、全部執行猶予でも、刑が免除されても該当します。在留資格が別表第一(就労・留学など)か別表第二(永住者、日本人の配偶者等、定住者など)かも問いません。永住者であっても例外ではありません。ところが、医薬品医療機器等法はこの列挙に含まれていません。したがって、指定薬物の事件で有罪となっても、そのこと自体で4号チに当たることはないのです。

では何で判断されるのか。4号リの「1年を超える実刑」

指定薬物の事件で退去強制事由に当たるかどうかは、24条4号リ、すなわち無期又は1年を超える拘禁刑に処せられたかどうかで判断されます。ここで重要なのは、同号の但書により全部執行猶予が付いた場合は除外されるという点です。一部執行猶予でも、実刑部分が1年以下であれば除外されます。報じられた大分地裁の事案は拘禁刑2年6月・執行猶予4年ですから、刑期の数字だけを見れば1年を超えていますが、全部執行猶予であるため4号リには当たりません。「執行猶予でも退去強制事由になる」という説明を目にすることがありますが、これは誤りですので、その説明を前提に将来の生活設計を決めてしまわないでください。出入国管理統計によれば、令和7年に4号リ単独で退去強制令書が発付された人は全国で41人(うち中国籍11人)、4号チ単独は86人(うち中国籍4人)で、発付総数7,722人の大半は不法残留(4号ロ)の5,778人です。

執行猶予でも残る問題を、先に潰しておく

退去強制事由に当たらないことと、これまでどおり在留が続くこととは同じではありません。在留期間の更新や在留資格の変更は、法務大臣の裁量の下で、素行が善良かどうかを含めて審査されます。有罪判決を受けた事実は、この審査で必ず考慮されます。また、就労資格の方が勾留や公判で長期間職場を離れ、退職に至った場合には、在留資格に応じた活動を継続して3か月以上行っていないことを理由とする在留資格の取消し(入管法22条の4第5号)が問題になり得ます。上陸拒否事由の扱いも罪名によって異なりますので、確定した罪名と判決の主文を手元に置いて確認する必要があります。

ご家族が今日から準備できること

第1に、判決が確定したら判決書の謄本を取得してください。入管の手続では、報道や記憶ではなく、確定した罪名と主文が資料になります。第2に、在留カードと旅券の所在を確認し、次の在留期間の満了日を書き出してください。第3に、勤務先や学校への説明をいつ、誰が、どこまでするかを弁護人と相談してください。先に噂が広がってから釈明するより、事実関係が固まった段階で本人と弁護人が説明したほうが、雇用や学籍を維持できる場面は多くあります。第4に、再発防止のために何をしたかを日本語の記録として残してください。更新申請の際に、これが唯一の反論材料になることがあります。

中文版:指定药物案件不属于毒品类退去强制事由。罪名之差决定在留去向

中国語対応の刑事弁護のご相談

舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。

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この記事を書いた弁護士

松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。

本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。

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