「在留資格を取ってあげる」という誘いを見分ける 三つの摘発事例に共通する型
2026/08/31
在留期限が近づくと、「在留資格を取ってあげる」「こちらで通します」という声が、驚くほど自然に近づいてきます。多くの場合、紹介者は知人であり、話し方も親切です。しかし、摘発された事件を並べてみると、勧誘の型は驚くほど似通っています。この記事では、報道された三つの事例に共通する型を示したうえで、正規の申請取次と無資格のブローカーが制度上どう違うのか、依頼する前にご自身で確認できることは何かを整理します。
三つの事例に共通する型
一つ目は、CBCテレビが2026年6月23日に報じた事例です。岐阜県瑞穂市で、中国籍の男性と日本人の女性が、婚姻の意思がないまま虚偽の婚姻届を提出したとして摘発されました。男性は日本で長く働くための資格が欲しかったと認めたと報じられ、ブローカーへの支払いは少なくとも200万円、女性の受領報酬は100万円以上とされています。
二つ目は、2024年5月16日付の報道(配信元の媒体名は当方で確認できていないため記しません)で伝えられた事例です。会社役員の男性と行政書士の男性が、都内の飲食店で働く中国人女性について、栃木県内の総菜加工会社で勤務していると偽って在留資格を更新させたとされ、約5年間で約350人分の虚偽更新を行い1億円以上を受領したと報じられました。会社役員は認め、行政書士は否認したとされています。
三つ目は、旅日僑網(東京online酱)が2023年6月29日に報じた事例です。中国籍のブローカーらが、在留期限の迫った中国人留学生に虚偽の書類を提出させ、約80人分について「経営・管理」への変更許可を取得させたとされ、報酬は4500万円以上とされています。いずれも疑いとして報じられたものであり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
この三つに共通するのは、第一に、在留期限が迫った時期を狙うこと。第二に、書類の中身を依頼者に見せないこと。第三に、報酬が手続の実費に見合わない高額であること。第四に、成功の見込みを断定することです。
「結婚すれば資格が取れる」という誘い
婚姻届の提出は、それ自体は簡単な手続です。だからこそ、最も安易に勧められます。しかし、婚姻の意思がないまま届出をすれば、それは虚偽の届出の問題になります。そして在留資格の側でも、入管法22条の4第1号が、偽りその他不正の手段による上陸許可等を取消事由と定めています。
弁護実務の観点から言えば、この類型で争えるのは婚姻の意思の有無です。同居の実態、家計の負担、交際の経緯といった客観的な事実で判断されますから、実体のある婚姻であれば争う余地は十分にあります。逆に言えば、実体を作らないまま形だけ整えても、それは後になって問われます。ブローカー主導の事案では、従属的な立場にあったことが量刑の場面で意味を持ちますが、それは有罪を前提とした話です。
「更新はこちらで通す」という誘い
最も見分けにくいのがこの型です。実際に勤務している会社ではない会社を勤務先として書く、実際より高い給与額を書く、実際にはしていない業務内容を書く。書類を作るのは相手方で、依頼者は署名するだけです。
しかし、更新申請の内容が虚偽であれば、その効果は申請人本人に及びます。入管法22条の4は、虚偽の申請等を第2号・第3号の取消事由と定めています。「頼んだ人が悪いのであって自分は知らなかった」という説明が通るかどうかは、書類を見たか、勤務実態を説明されたか、報酬をどう理解していたかで決まります。数百人分が一括して摘発される事件では、一人ひとりの事情が丁寧に聞かれるまでに長い時間がかかります。
「経営・管理に変えられる」という誘い
留学の在留期限が迫り、就職先が決まっていない方に向けて、この誘いが集中します。会社を作れば在留資格が取れる、という説明は、制度の一面だけを切り取ったものです。実際には、事業の実体、事業所の存在、事業の継続性が問われ、更新のたびに検証されます。虚偽の事業計画書や、他人から一時的に借りた資金を出資金として計上した記録は、後の更新申請で食い違いを生みます。
そして、その食い違いが表に出るのは、多くの場合、数年後の更新のときです。そのときには、最初に誘った人はもう連絡が取れません。残るのは、自分の名前で提出された書類だけです。
正規の申請取次と、無資格のブローカーはどこが違うのか
在留資格の申請は、本人が入管の窓口で行うのが原則です。そのうえで、法令に基づき、一定の要件を満たした弁護士や行政書士などが、届出をしたうえで申請を取り次ぐことができます。ここで重要なのは、正規の取次者は資格と所属が公にたどれるということです。弁護士であれば所属弁護士会と登録番号があり、行政書士であれば登録があります。
したがって、依頼する前に、次の点を確認してください。氏名と資格、所属団体、登録番号を名乗るか。事務所の所在地を明示するか。委任契約書と領収書を出すか。提出する書類の控えを渡すか。そして、「入管に知り合いがいるから通せる」という説明をしていないか。審査の結果を事前に約束できる立場の人は存在しません。断定する人は、その時点で信頼できません。
前掲の二つ目の事例では、関与したとされる一方が行政書士でした。資格を持っていることは、その人が適法に業務をしていることを保証しません。
誘いを断るために、今日決めておくこと
第一に、自分が署名する書類は最後まで読む、読めないなら訳してもらう、と決めてください。第二に、控えを渡さない相手には依頼しないと決めてください。第三に、在留カードの画像、旅券の写し、通帳、キャッシュカード、暗証番号は渡さないと決めてください。第四に、成功を断定する説明は信じないと決めてください。
すでに依頼してしまった方は、今からでも申請書の内容を確認してください。やり取りの記録は消さずに保管してください。そして、更新の時期が来る前に、通訳の付いた弁護士に一度相談してください。何もしないまま更新申請の窓口に立つのが、最も避けたい形です。
中文版:如何识别“帮你拿在留资格”这类招揽 三起查处案件的共同套路
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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