永住者の会社役員が不法残留者を雇った 永住の在留資格は残るのか
2026/08/31
永住者の在留資格を持っている方から、「自分は永住だから、多少のことでは日本を出されない」というお話をうかがうことがあります。永住者が別表第二の在留資格であることは確かに大きな意味を持ちますが、それは万能の盾ではありません。とりわけ、事業を営んでいて外国人を雇っている方にとって、不法就労助長は最も注意すべき事由です。この記事では、永住者の会社役員が不法残留の外国人を雇ったとして検挙されたとされる事例をもとに、なぜこの類型が刑事処罰を経なくても退去強制事由になるのか、永住者であることが何を守り何を守らないのかを整理します。
報じられているのはどのような事例か
警察庁が公表する組織犯罪の情勢に掲載された検挙事例として、令和7年に兵庫県警が扱ったものが挙げられています。会社役員である中国人の女性で、在留資格は永住者とされる方が、令和6年3月頃から令和7年9月までの間、不法残留のベトナム人の男性3人らを自社で従業員として働かせたとして、不法就労助長で逮捕され、あわせてベトナム人3人(技能実習の在留資格)が不法残留で逮捕された、という内容です。これは検挙されたと公表されている事例であり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
不法就労助長は、有罪判決がなくても退去強制事由になる
この類型の急所は、刑罰の重さではありません。入管法73条の2は不法就労助長罪を定めていますが、退去強制の側では、入管法24条3号の4が不法就労助長を退去強制事由として定めており、しかもこれは行為があれば該当し、刑事処罰を要しません。つまり、起訴猶予になっても、罰金にとどまっても、退去強制事由該当性の判断はそれとは別に行われるということです。
この類型では「不起訴になったから終わり」とはなりません。刑事の弁護活動と並行して、入管に何を示すかを組み立てる必要があります。
永住者であることは、何を守り、何を守らないのか
永住者は入管法別表第二の在留資格です。この区別が効いてくるのは、入管法24条4号の2に定められた特定犯罪の類型です。この号は別表第一の在留資格をもって在留する者に限られ、危険運転致死傷や盗難特定金属製物品処分防止法の違反が挙げられています。永住者は別表第二ですから、この号の適用は受けません。
しかし、別表を問わない事由が複数あります。24条3号の4の不法就労助長がその一つです。ほかに、24条4号チの薬物事犯は有罪判決のみで足り、罰金でも執行猶予でも該当します。24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を対象としますが、ただし書により全部執行猶予は除外されます。「執行猶予でも該当する」というのは誤りです。いずれにせよ、永住者だから退去強制事由に一切当たらない、ということはありません。
在留外国人統計によれば、令和7年12月末現在、中国籍の在留者930,428人のうち永住者は357,565人です。別表第二と特別永住者を合わせると約47%を占めます。多くの方が「永住だから大丈夫」と考えやすい状況にありますが、事業を営む立場では話が違ってきます。
数字で見ると、この事由はどのくらい発付されているのか
出入国管理統計の令和7年の退去強制令書発付人員(単独事由)では、総数7,722人のうち、3号の4イ(不法就労助長の行為者本人)は15人であり、そのうち中国が10人です。全体から見れば少数ですが、この事由に限れば中国籍が大きな割合を占めています。
また、警察庁「令和6年における組織犯罪の情勢【確定値版】」(令和7年4月)によれば、令和6年の雇用関係事犯の検挙は278件・326人で、うち不法就労助長罪が262件(94.2%)・312人(95.7%)です。被雇用の不法就労外国人は533人で、国籍別ではベトナム247人、タイ50人、中国48人でした。雇う側が中国籍で、働く側が別の国籍という組み合わせは、統計上も現実に存在する形です。
争点は「知っていたか」だけではない
弁護活動の中心は、しばしば在留カードの確認体制に移ります。原本を見たのか、画像を送ってもらっただけか、更新後のカードを確認したのか、確認した記録が残っているのか。2024年5月16日付の報道(配信元の媒体名は当方で確認できていないため記しません)では、大阪の人材派遣会社が在留カードの原本を確認せずに65人を派遣し、画像データをSNSで送付させるだけで意図的に確認を怠っていたとして書類送検されたとされています。この場合、確認の懈怠は単なる過失ではなく、未必の故意と評価されうる事情になります。
また、時事通信社が2024年3月2日に報じた事例では、経営者が在留資格の活動範囲を超えて働かせることが違法と知らなかったと述べて否認したとされています。しかし、法律を知らなかったことは、刑法38条3項により、それだけで罪を犯す意思がなかったとする理由にはなりません。争うべきは法の不知ではなく、確認を尽くしたという事実の有無です。
永住の資格を守るために、今日できること
第一に、現在の雇用について、在留カードの原本確認の記録を整えてください。就労資格の範囲を超えていないかも併せて点検します。是正できる点があれば、捜査が始まる前に是正することに意味があります。
第二に、すでに捜査が始まっている場合は、刑事の見通しと入管の見通しを同時に立ててください。仮に退去強制手続に進んだ場合でも、在留特別許可を求める道があります。入管法50条2項により、在留特別許可の申請権は収容令書により収容された外国人または監理措置決定を受けた外国人に生じ、それ以前は職権の発動を求める活動になります。永住者としての在留期間の長さ、日本での家族関係、納税と社会保険の履行状況、従業員や取引先への影響は、いずれも主張の材料になります。
第三に、ご家族には、在留カードと旅券の所在、会社の帳簿や雇用関係書類の保全、身元引受の準備をお願いしています。事業を営む方の事件では、身柄拘束が会社の存続そのものに直結します。
中文版:永住者身份的公司董事雇用了非法滞留者 永住资格还能保住吗
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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