偽装結婚の検挙は中国籍が最多という統計を、報道の少なさとどう突き合わせて読むか
2026/08/31
「偽装結婚で捕まっているのは中国人が一番多いらしい」。こうした話は、根拠となる数字を見ないまま広がります。実際の公表統計はどうなっているのか、そしてその数字は何を意味し、何を意味しないのか。この記事では、警察庁が公表している令和6年の偽装結婚の検挙人員を年次と出典を示して確認したうえで、報道が非常に少ないこととどう突き合わせて読むべきか、国籍と犯罪傾向を結びつける誤読をどう避けるかを整理します。数字は、自分の事件の見通しを立てるためには、ほとんど役に立たないという結論も併せてお伝えします。
まず、数字そのものを正確に置く
警察庁「令和6年における組織犯罪の情勢【確定値版】」(令和7年4月)によれば、令和6年の偽装結婚の検挙人員は、中国10人、スリランカ8人、フィリピン4人、そして日本人19人です。
この並びを見ればすぐ分かるとおり、検挙人員が最も多いのは日本人の19人です。外国人の国籍別で見れば中国が10人で最も多い、というのが正確な言い方になります。偽装結婚は、日本人配偶者との婚姻届という形をとる以上、日本人の側と外国人の側が同時に検挙される構造を持っています。したがって、「中国籍が最多」という一言だけを取り出すと、この事件類型の実態を取り違えることになります。
母数を置かずに構成比を語らない
検挙人員の多寡を語るときは、母数を置く必要があります。在留外国人統計によれば、令和7年12月末現在の在留外国人数は4,125,395人で、うち中国が930,428人、22.6%で第1位です。在留者数が最も多い集団から一定数の検挙者が出ることは、それ自体では何も示しません。
さらに注意すべきは、警察庁の統計における「来日外国人」の定義です。原文では「我が国に存在する外国人のうち、いわゆる定着居住者(永住者、永住者の配偶者等及び特別永住者)、在日米軍関係者及び在留資格不明者を除いた外国人をいう」とされています。中国籍の在留者のうち、永住者357,565人、永住者の配偶者等21,762人、特別永住者610人は、そもそもこの統計の母集団に入っていません。数字を扱うときに、この定義を落とすと、まったく別の話になってしまいます。
報道が少ないことは、事件が少ないことを意味しない
一方で、偽装結婚に関する中国籍の事案の報道は、極めて少ないのが実情です。報道ベースで確認できるものとしては、CBCテレビが2026年6月23日に報じた事例があります。岐阜県瑞穂市で、中国籍の男性1人と日本人の女性1人が、婚姻の意思がないまま虚偽の婚姻届を提出したとして摘発されたもので、男性は日本で長く働くための資格が欲しかったと認めたと報じられ、ブローカーへの支払いは少なくとも200万円、女性が受け取った報酬は100万円以上とされています。これらは疑いとして報じられたものであり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
統計上は一定数が検挙されているのに、報道はほとんど出てきません。ですから、「報道で見かけないから少ない」とも、「統計で最多だから頻発している」とも言えません。報道の量は、事件の量ではなく、報道機関が何を記事にするかの反映です。
比較のために、報道が多い類型と並べてみる
同じ入管法まわりでも、在留カードの偽造は報道が比較的多い類型です。警察庁の資料に掲載された検挙事例には、令和5年10月に警視庁ほか7府県で、中国人の男1人と日本人の女1人が販売目的で在留カード19枚を偽造した事例、令和4年10月に警視庁ほか5県で、中国人の男3人と日本人の男1人がSNSで注文を受けて偽造しベトナム人らに販売した事例、令和3年6月に警視庁ほか2県で、中国人の男4人がSNSで注文を受けて偽造しインドネシア人らに販売した事例が挙げられています。統計でも、令和5年の旅券・在留カード等の偽造事犯の検挙人員は、ベトナム91人、中国45人、インドネシア14人、日本人3人です。
つまり、偽造は組織的な製造・販売という分かりやすい形をとるため報道になりやすく、偽装結婚は届出という日常的な形をとるため報道になりにくい。見え方の差は、事件の重さの差ではありません。
統計は、あなたの事件の見通しを何も教えてくれない
ここまで数字を整理してきましたが、実務家としてお伝えしたいのは、これらの統計があなたの事件の帰趨をほとんど何も決めないということです。婚姻の意思があったかどうかは、同居の実態、家計の負担、交際の経緯、写真や連絡の履歴、周囲の証言といった客観的な事実によって判断されます。国籍別の検挙人員は、その判断に一切影響しません。
また、法的な帰結も一律ではありません。有罪となれば、在留資格の取消しの問題が生じます。入管法22条の4は、偽りその他不正の手段による上陸許可等を第1号に、虚偽の申請等を第2号・第3号に定めています。出入国在留管理庁の統計では、令和7年の取消件数1,446件のうち、第1号は3件、第2号は48件、第3号は39件です。件数としては少数ですが、該当すれば個々の生活は根本から変わります。
疑いをかけられたときに、今日できること
婚姻の実体を示す資料を、時系列で集めてください。同居していた住居の契約、光熱費の支払い、日常の連絡の履歴、家族や友人との写真、双方の親族との交流。作り直したものではなく、当時のまま残っているものに価値があります。
取調べでは、記憶のない事柄を推測で埋めないでください。通訳が必要であれば、遠慮なく求めてください。そして、刑事事件と在留資格の手続は別に進みますから、両方を見通せる弁護人に早めに相談してください。ご家族としては、在留カードと旅券の所在の確認、差し入れ、身元引受の準備を進めておくことが、最初にできることになります。
中文版:“假结婚查处中国籍最多”的统计,与报道稀少该如何对照解读
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
お問い合わせ:舟渡国際法律事務所(東京)/微信ID matsumura1119
この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
東京にて行政事件に関する対応
----------------------------------------------------------------------