「在留資格の相談に乗る」と誘って口座を作らせたとされる脱税事件 名義を貸した側に何が起きるか
2026/08/31
「在留資格のことで力になれる」と言われ、会社の給与の受取口座を作るよう頼まれる。実際には働いていないのに、自分の名義で毎月給与が振り込まれ、そのまま引き出して返す。こうした頼まれごとは、頼む側にとっては帳簿を整えるための道具ですが、頼まれた側にとっては後から自分の名前だけが残る危険な取引です。この記事では、報道された架空人件費による脱税事件を手がかりに、名義や口座を貸した人がどのような経路で刑事事件と在留資格の問題に巻き込まれるのかを、順を追って説明します。
報じられたのはどのような事件か
産経新聞が2026年8月10日に独自として報じたところによると、東京都中央区の情報システムソフト開発会社と、その中国籍の47歳の男性社長が、多数の外国人を雇用しているように装って所得を圧縮し、8200万円を脱税したとして、東京国税局から東京地検特捜部に告発されました。手口としては、SNSで応募した中国人らに銀行口座を作らせ、給与の支払いを装っていたと報じられています。また、在留資格の取得相談に応じるとうたって協力者を集めていた疑いがあるとされています。氏名や社名、番地は書きません。これは告発として報じられたものであり、起訴・有罪が確定したものではなく、無罪推定が及びます。
架空の人件費という手口は、なぜ他人の名義を必要とするのか
会社の利益を圧縮する方法として人件費を水増しするとき、単に帳簿に金額を書き込むだけでは、税務調査にすぐ耐えられなくなります。給与として支出したという外形を作るには、受け取る人が実在し、その人の口座に実際に振り込まれ、源泉徴収や住民税の記録が残っている必要があります。だからこそ、名義と口座が必要になります。
逆に言えば、こうした事件の立証の中心は、名義人の存在と供述です。名義人が「実際に働いていた」と述べれば経費性の主張は残り、「働いていない、口座を渡しただけだ」と述べれば架空性が固まります。名義人は、事件の外にいるのではなく、立証の中心に置かれた当事者です。捜査機関が名義人を丁寧に探し出して事情を聞くのは、そのためです。
口座や名義を貸した人に生じうる責任
第一に、預貯金口座の問題があります。犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)は、他人になりすまして預貯金口座に係る役務の提供を受ける行為や、預貯金通帳・キャッシュカードを不正な目的で譲り渡す行為などを禁じ、罰則を置いています。「自分の口座を自分で作ったのだから問題ない」という理解は、誤りです。作った時点で他人に渡す約束があったのなら、その口座は最初から他人のために作られたものと評価されます。
第二に、脱税や詐欺の共犯という評価があり得ます。もっとも、ここは事情によって大きく分かれます。何のための口座かを知らされていなかったのか、報酬の名目は何だったのか、口座を何個作ったのか、繰り返したのか。単発で、事情を知らされず、報酬もわずかであれば、犯罪収益の受け皿として利用された被害者的な側面が正面から評価されるべき場面です。
第三に、口座が転々と使われた場合、後から別の事件の捜査で名前が挙がることがあります。自分の口座が振込先として使われれば、そこには自分の名前と住所が残ります。
「在留資格の相談」を入口にする勧誘の危うさ
この事件で重く受け止めるべきなのは、勧誘の入口が「在留資格の相談」だったと報じられている点です。在留期限、更新の可否、転職の届出。これらは在留する外国人にとって最も切実な悩みであり、そこに「力になる」と言われれば警戒が緩みます。
しかし、在留資格に関する不安を解消する正しい方法は、名義を貸すことではありません。むしろ逆で、実体のない雇用関係に自分の名前を置くことは、在留資格の側から見ても危険です。入管法22条の4は、偽りその他不正の手段による上陸許可等(第1号)、虚偽の申請等(第2号・第3号)を在留資格の取消事由と定めています。働いていない会社の給与記録が自分の名前で残れば、後の更新申請の際に、活動実態の説明そのものが困難になります。出入国在留管理庁の統計では、令和7年の在留資格取消件数は1,446件で過去最高でした。
すでに口座を渡してしまった場合の手順
まず、口座の利用を止める手当てをしてください。取引金融機関に事情を伝えて相談することが出発点です。次に、通帳・キャッシュカード・暗証番号を渡した経緯、依頼者とのやり取り、受け取った金銭の額と方法を、記憶が新しいうちに書き出し、メッセージ履歴を保全してください。ここで履歴を消してしまうと、自分が事情を知らされていなかったことを示す資料も一緒に失います。
そのうえで、警察や入管に自ら申し出るかどうかは、弁護人と相談して決めてください。自ら申告することが有利に働く場面は確かにありますが、何を、どの順序で、どの窓口に伝えるかによって結果は変わります。ご家族としては、在留カードと旅券の所在の確認、勤務先や学校への説明の時期、身元引受の準備を進めておくことが実際的です。刑事の処分と在留資格の帰趨は続いていますので、両方を見通せる形で相談されることをお勧めします。
中文版:以“帮你办在留资格”为诱饵让人开户的逃税案 借出名义的一方会遇到什么
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
お問い合わせ:舟渡国際法律事務所(東京)/微信ID matsumura1119
この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
東京にて行政事件に関する対応
----------------------------------------------------------------------