ベビーシッターを雇うために虚偽の在留資格申請をしたとされる事件 雇う側と働く側で問われるものが違う
2026/08/31
家庭で子どもを預かってもらうために外国人の方を雇う。その入り口は、多くの場合ごく日常的な相談から始まります。ところが、在留資格の中身と実際にしてもらう仕事が一致していないと、雇った側にも働いた側にも刑事事件が生じます。この記事では、報道されたベビーシッターをめぐる虚偽申請事件を手がかりに、雇う側に問われるもの、働く側に問われるもの、そして関係者が先に起訴されている段階で否認することが何を意味するのかを整理します。家庭という閉じた場で起きる事件だからこそ、証拠のかたちも通常の雇用事件とは違ってきます。
報じられたのはどのような事件か
TBSが2026年6月18日に報じたところによると、東京都港区の会社役員である30代の夫婦が、2023年に虚偽の内容で在留資格を申請した疑いなどで捜査を受けました。未就学児を預かる家庭で外国人ベビーシッターが資格外活動をしているとの情報提供が捜査の端緒とされ、関係者として中国籍のベビーシッターの女性、観光目的の在留資格で入国した中国籍の女性、中国系オーストラリア国籍の男性の名が報じられています。夫婦は否認しており、関係者2人はすでに起訴されていると報じられました。なお、夫婦の国籍は報道からは確認できません。これらは疑いとして報じられたものであり、起訴・有罪が確定したものではなく、無罪推定が及びます。
雇う側に問われるもの
雇う側の責任は、二つの方向から生じます。一つは、在留資格の申請に虚偽の内容を関与させたことです。入管法22条の4は、偽りその他不正の手段による上陸許可等(第1号)、虚偽の申請等(第2号・第3号)を在留資格の取消事由と定めており、申請の内容に雇用主が関わっていれば、その関与のしかたに応じて刑事責任も検討されます。
もう一つは、不法就労助長です。入管法73条の2は不法就労助長罪を定めています。実務上の争点は、在留カードの原本を確認したかどうかに集中します。画像を送ってもらっただけで済ませていた、更新後のカードを見ていなかった、といった事情は、単なる不注意ではなく未必の故意と評価されることがあります。さらに重要なのは、入管法24条3号の4が定める退去強制事由が、刑事処罰を要さず行為だけで該当するという点です。雇用主自身が外国人である場合、刑事事件が終わっても入管の手続が残ります。
働いた側に問われるもの
働いた側は、資格外活動の問題になります。入管法73条が資格外活動の罪を定め、活動が専従に至った場合は70条1項4号の問題になります。退去強制事由としては、資格外活動の専従が24条4号イ、資格外活動の罪で拘禁刑に処せられた場合が24条4号ヘに定められています。
注意していただきたいのは、短期滞在(観光目的の入国)で報酬を受けて働くことは、資格外活動の中でも特に説明が難しい類型だということです。「知人の家を手伝っていただけ」「お礼をもらっただけ」という説明は、勤務時間の固定、業務の継続性、支払いの定期性といった外形から否定されることが少なくありません。逆に言えば、家庭内の手伝いとしての実態を具体的な事実で示せるかどうかが、防御の分かれ目になります。
関係者が先に起訴されている段階で否認するとはどういうことか
この事件では、関係者2人がすでに起訴されていると報じられています。この構図は、否認する側にとって重い意味を持ちます。先に処分が決まった関係者は、自分の量刑を軽くするために、事実関係をより率直に語る動機を持ちます。その供述が、否認している側の事件の主要証拠になります。
したがって弁護活動は、共犯者とされる人の供述がいつ、どのような取調べの中で、どのように変化したかを丁寧に追うことから始まります。供述の変遷、初期の説明と後の説明の食い違い、報酬や指示の記憶の不自然な整い方。これらは客観的な記録(振込、メッセージ、勤務の実態)と突き合わせて初めて意味を持ちます。また、否認事件では身柄拘束が長期化しやすく、接見禁止が付くこともあります。接見禁止が付いてもご家族との面会が制限されるだけで、弁護人との接見は刑訴法39条1項によって保障されており、制限されません。この一点を、ご家族には最初にお伝えしています。
家庭という場の特殊性と、今日できること
家庭内の就労は、タイムカードも就業規則もありません。したがって、事実の立証は当事者の記憶と、断片的な記録に頼ることになります。ですから、記録を残すこと自体が最大の備えです。支払いの方法と金額、依頼した業務の内容、時間帯、契約書の有無。これらを事後に整理して作るのではなく、あるものをそのまま保全してください。
ご家族としては、在留カードと旅券の所在の確認、勾留された場合の差し入れ、身元引受の準備、そして通訳を確保することが先決です。お子さんの生活に直接関わる事件でもありますから、保育や学校への説明のタイミングは、処分の見通しを踏まえて慎重に決めることをお勧めします。刑事の処分と在留資格の帰趨は連続していますので、刑事だけ、入管だけを別々に相談すると、どちらかで取り返しのつかない選択をしてしまうことがあります。
中文版:为了雇保姆而被指虚假申请在留资格 雇主一方与工作一方被追究的东西不同
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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