手続を頼んだだけの本人にも、在留資格の取消しは及ぶのか
2026/08/31
「手続は全部お願いしていたので、書類に何が書かれていたのかは知りません」。虚偽の更新申請が発覚した事案で、依頼した本人がこう説明することは珍しくありません。この記事は、更新や変更の手続を業者・資格者に任せていた方に向けて書いています。結論から申し上げると、この説明だけで在留資格の取消しを免れることは難しいのが実情です。ただし、通らないと決まっているわけでもありません。何を示せば通り得るのかを、具体的に説明します。
きっかけとなった報道
2024年5月16日、会社役員の男性と行政書士の男性が、実際とは違う勤務先を記載して中国人女性の在留資格を更新したとして摘発され、約5年間で約350人分の虚偽更新が行われたとみられると報じられました。この報道の配信元の媒体名は当事務所では確認できていません。摘発の段階の報道であり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。ここで問題にしたいのは、業者側ではなく、その手続を依頼した本人の立場です。
更新申請は、誰の申請なのか
出発点はここです。在留期間の更新申請は、申請人本人の申請です。取次ぎをする者は、本人に代わって書類を提出する立場にあります。したがって、申請書に記載された内容は、法的には本人が入管に対して述べたこととして扱われます。この構造がある以上、「頼んだ人が勝手に書いた」という説明は、それだけでは自分の申請ではないという主張にはなりません。まして、申請書に本人が署名している場合には、内容を確認したうえで提出したという外形が整っています。ここを理解しないまま「知らなかった」とだけ主張すると、意見聴取の場で説得力を持ちません。
「確認していなかった」は、どこまで通るのか
実務では、次のような要素が総合的に見られます。第1に、書類を見せられたかどうか。控えを渡されていない、署名だけを求められた、白紙に署名させられたという事情があれば、有利な方向に働きます。第2に、日本語の能力と制度の理解です。書類の記載を読んで意味が分かる状態だったかは、認識の有無に直結します。第3に、報酬の額です。相場からかけ離れた高額を支払っていた場合、何か通常でないことが行われていると疑うべきだったのではないか、という評価につながります。第4に、記載内容と本人の生活の隔たりです。勤務先がまったく違う県になっているような場合、気づかないはずがないという評価を受けやすくなります。逆にいえば、これらについて具体的な説明ができれば、通る余地はあります。
取消しは、どの規定で進むのか
在留資格の取消しを定める入管法22条の4のうち、虚偽の申請等を捉えるのが第2号・第3号です。出入国在留管理庁の統計によれば、令和7年の取消し1,446件のうち、第2号は48件、第3号は39件でした。全体の中では多くありませんが、業者の摘発を端緒に一斉に洗い直しが行われれば、同じ業者に依頼していた方に連絡が及びます。取消しの前には意見聴取があり、ここが実質的な勝負どころです。契約書、支払の記録、やり取りの記録、実際の勤務先の資料、給与明細、社会保険の記録を持参し、自分が実際にどこで働いていたのかを客観的に示すことが第一歩になります。
取り消された場合に残る道
取消しがなされれば在留資格を失い、以後は不法残留として退去強制事由(入管法24条4号ロ)に当たります。令和7年の退去強制令書発付は7,722人で、うち5,778人がこの類型でした。他方、同じ年に在留特別許可を得た方は1,030人です。数字が示すのは、在留特別許可の道が閉ざされているわけではないということです。令和5年改正により考慮事情が法定化され(入管法50条5項)、家族関係、素行、入国の経緯、在留期間、人道的配慮などが判断要素として明示されました。また、令和6年3月改定のガイドラインは、自ら出頭したことを積極要素としています。動く時期と順序が、結論を分けます。
これから手続を依頼する方へ
5つだけ、守っていただきたいことがあります。第1に、申請書の記載を自分の目で読むこと。読めない場合は、通訳を介してでも内容の説明を受けること。第2に、控えを受け取ること。受付印のある写しがあれば、後から何が提出されたのかを確認できます。第3に、勤務先や住所が実際と違う場合は、その場で指摘すること。第4に、報酬の内訳を書面で受け取ること。第5に、勤務先を変えたとき、住居地を変えたときは、自分で届出をすること。届出義務違反は、令和7年の取消事由の69・1%を占めています。手続を任せることと、内容を確認しないことは、まったく別のことです。
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舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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