「人手不足でやむを得なかった」は、情状としてどこまで効くのか
2026/08/31
外国人の就労をめぐる事件で、経営者から最も多く聞く説明が「人手不足でやむを得なかった」です。この言い分は、嘘ではないことが多い。実際、募集をかけても人が来ず、既にいる人に頼らざるを得ないという現場は各地にあります。問題は、その事情が刑事手続の中でどう扱われるかです。この記事は、外国人を雇っている事業者の方とご家族に向けて、人手不足という事情がどの場面でどこまで効くのか、そして何と組み合わせたときに逆効果になるのかを説明します。
報じられた事案での経営者の説明
神奈川新聞(カナロコ)が2025年11月18日と同年12月8日に報じた事案では、千葉県船橋市の鉄鋼資材販売会社の中国籍の社長と法人が、入管法違反(不法就労助長)で摘発され、2025年12月8日に横浜地方検察庁が起訴したと伝えられました。報道によれば、神奈川県内の工場で、技能実習の在留資格をもつ中国籍の男性らに本来の資格では認められない業務をさせていたとされ、社長は容疑を否認しつつ「日本人がすぐ辞め、人手不足で技能実習生に頼らざるを得なかった」と述べていたと報じられています。有罪が確定したものではなく、無罪推定が及びます。同じ報道では、この会社の書類送検は3回目であったとも伝えられました。
人手不足は、犯罪の成否には影響しない
まず整理しておかなければならないのは、人手不足は違法性を消す事情ではないということです。刑法には、差し迫った危難を避けるためにやむを得ずした行為について責任を問わない考え方がありますが、経営上の困難はここでいう危難には当たらないと考えられています。人手が足りないから許されない仕事をさせてよい、という理屈は成り立ちません。したがって、人手不足の主張が意味をもつのは、成立の場面ではなく、起訴・不起訴の判断と量刑という情状の場面に限られます。
情状として効かせるには、実情を立証する必要がある
単に「人が来なかった」と述べるだけでは、供述にとどまります。効かせるには、その実情を外から確認できる形にする必要があります。求人を出した記録、応募数と採用に至らなかった経過、人材紹介会社とのやり取り、繁忙期の受注量と必要人員の対比、退職者の推移。これらがそろえば、経営判断としての切迫の程度が具体的に示せます。加えて、報酬や労働時間の面で搾取的な扱いがなかったこと、社会保険や税の取扱いに問題がなかったことも重要です。人手不足を理由にしながら、実は安い労働力として使っていたと見られれば、情状は一転して不利になります。
反復と、是正の機会を逃したことは強く不利に働く
この類型で最も重い不利事情は、同じことを繰り返していたという経過です。過去に指摘や捜査を受けながら、体制を変えないまま同じ状態が続いていた場合、人手不足という説明は、改善しない理由の説明として読み替えられてしまいます。行政や捜査機関からの指摘は、その時点で是正の機会が与えられたことを意味します。その機会に何をしたかが記録に残っていなければ、切迫していたという主張より、放置していたという評価が前に出ます。書類送検が繰り返された末に起訴に至るという経過は、この評価の帰結として理解できます。
再発防止体制は、言葉ではなく仕組みで示す
情状として実際に働くのは、事件後に何を作ったかです。実務で提出できる形にするなら、次のような要素になります。第一に、採用時の在留カードの原本確認を欠かさず経る手順と、確認者・確認日の記録。第二に、在留期間の満了日の一覧管理と、更新前の再確認。第三に、就労可否の判断に迷った場合に照会する外部の窓口の確保。第四に、責任者の明確化と、現場の裁量で採用しない体制。第五に、既存従業員の全件点検の結果と、問題のある就労を止めた日付。これらを社内規程と記録の形にして示せば、再発防止は具体的な事実になります。口頭の反省文よりも、この積み上げのほうが評価されます。
統計から見える、この類型の位置
警察庁の令和6年の統計によれば、雇用関係事犯の検挙は278件・326人で、そのうち不法就労助長罪が262件・312人を占めました。働いていた側の在留資格は技能実習が208人で全体の39.0%、短期滞在が132人で24.8%でした。国籍別ではベトナムが247人、タイが50人、中国が48人です。つまりこの類型は、特定の国籍の問題ではなく、人手を必要とする産業の構造の中で起きています。その構造を語ること自体は正当ですが、語るなら、自社が構造の中で何をしたのかまで示さなければ、情状としては届きません。
ご家族と会社が最初にすること
社長が身柄を拘束されたら、まず事業を止めないための連絡経路を確保し、次に、求人と採用に関する記録、在留カードの写し、勤務記録を保全してください。過去に指摘を受けた際の対応記録は、探せば残っていることが多く、これがあるかないかで見え方が変わります。並行して、問題のある就労を直ちに止め、その日付を残します。取調べでは、人手不足の事情を述べること自体は差し支えありませんが、それだけを繰り返すと、違法性の認識があったのに続けたという方向で受け取られかねません。事実の経過と、いま行っている是正を、順序立てて説明することが大切です。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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