「違法だとは思わなかった」という経営者の言い分は通るのか(不法就労助長)
2026/08/31
外国人を雇っていた事業者が摘発されたとき、最初に出てくる言葉はたいてい同じです。「そんな決まりがあるとは知らなかった」「この在留資格では働かせられないとは思わなかった」。この記事は、飲食店、マッサージ店、人材派遣、建設、小売といった業種で外国人を雇っている経営者の方と、そのご家族に向けて書いています。日本の刑事法において「知らなかった」という言い分がどこまで通り、どこから通らないのか。そして通らないとされたとき、何が処分の軽重を分けるのか。報じられた事案を手がかりに、順を追って整理します。
報じられた事案で、経営者は何と述べていたのか
時事通信社が2024年3月2日に報じた事案では、東京都豊島区の個室マッサージ店の経営者ら4人が、在留資格の活動の範囲を超えて外国人を働かせたとして再逮捕されました。このうち中国籍の男性は「在留資格の活動範囲を超えて働かせることが違法と知らなかった」と述べて否認していると報じられています。いずれも逮捕の疑いの段階で報じられたものであり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。2026年2月にも、東京都台東区の中華料理店で、資格外活動許可のない「技術・人文知識・国際業務」の在留資格をもつ従業員をホールで働かせたとして経営者が摘発され、「技人国の在留資格とは分かっていたが、日本の法律違反ではないと思っていた」と一部否認したと伝えられました。ただしこの事案は、当事務所が確認できた範囲では配信元の媒体名を特定できていないため、ここでは事案の骨格だけを紹介します。
法律を知らなかったことは、なぜ故意を否定しないのか
刑法38条3項は、法律を知らなかったとしても、そのことによって罪を犯す意思がなかったとすることはできない、と定めています。実務でこの条文が意味するのは、故意の対象が「法的な評価」ではなく「事実」だということです。不法就労助長でいえば、雇っている相手が外国人であること、その人の在留資格や許可の状況からすると、させている仕事が許されていないという事実関係を認識していれば足ります。「その事実が入管法違反という犯罪にあたるとまでは思わなかった」というのは、事実の誤りではなく法律の評価の誤りであり、故意を消しません。同項ただし書は情状により刑を減軽することができるとしており、まったく無意味というわけではありませんが、それは有罪を前提とした量刑の話です。
それでも「知らなかった」が実質的な意味をもつ場面
もっとも、不法就労助長罪(入管法73条の2)については、雇用主に過失もない場合まで処罰する趣旨ではないという議論があり、実務上も、在留カードの確認を尽くしていれば見抜けなかったといえる事案では成立が問題になります。つまり、争点は「違法と知っていたか」ではなく「どのような確認をしたか」に移ります。原本を見たのか、画像や写しだけだったのか。在留期間の満了日と就労制限の記載欄、資格外活動許可の有無をどこまで見たのか。更新のたびに確認し直していたのか。相談先はあったのか。これらは供述ではなく、書類とデータで示せる事柄です。
弁護人が実際に争う点
この類型で弁護人が組み立てるのは、おおむね四つの柱です。第一に、事実の認識です。就労制限欄を見た形跡があるか、シフト表や給与台帳が何を示しているかを突き合わせます。第二に、確認体制の実在です。採用時のチェックシート、在留カードの写しの保存状況、行政書士や弁護士に照会したメールの履歴が、体制が形だけでなかったことを示します。第三に、その人の役割です。現場の採用を店長に任せきりだったのか、名義上の代表にすぎなかったのかで、非難の程度は変わります。第四に、是正の時点です。指摘を受けてから就労を止めるまでの日数は、そのまま反省の具体的な指標として読まれます。
在留資格への影響は、雇った側と働いた側で別々に進む
助長行為をした側は、入管法24条3号の4により、刑事処罰を待たずに行為そのもので退去強制事由に該当し得ます。令和7年の出入国管理統計第57表では、3号の4イによる退去強制令書の発付は15人で、うち中国籍が10人でした。全体の中では小さな数字ですが、中国籍の占める割合は高くなっています。他方、働いた側は、資格外活動が本来の活動を離れて専ら行われていたと評価されれば24条4号イ、入管法73条の罪で拘禁刑に処せられれば同4号ヘの問題になります。さらに、本来の活動を続けて3か月以上行っていないとして在留資格の取消し(22条の4第5号)が検討されることもあります。令和7年の取消件数は1,446件で過去最高でした。
ご家族と会社が今日できること
経営者が身柄を拘束された会社では、まず書類を散逸させないことです。在留カードの写し、雇用契約書、シフト表、給与台帳、タイムカードは、捜査の対象であると同時に防御の材料でもあります。よかれと思って整理・廃棄すると、罪証隠滅と受け取られて勾留が長引きます。次に、過去の相談履歴を掘り起こしてください。行政書士や社会保険労務士とのやり取りが残っていれば、確認体制の証拠になります。並行して、本人の在留カードと旅券の所在を確かめ、他の従業員についても就労の可否を点検し、疑わしいものは直ちに止めます。取調べでは通訳を求め、事実と評価を分けて話すことが大切です。「違法とは思わなかった」とだけ述べても、それは評価の話にとどまります。いつ、誰の、何を、どう確認したのかという事実を語れるかどうかが、この類型の分かれ目になります。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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