偽造在留カードを買った側は、どんな罪に問われるのか
2026/08/31
偽造在留カードの事件では、作った人や売った人だけが処罰されるわけではありません。買って持っていた人、見せた人も、それぞれ別の罪に問われます。「使っていない」「家に置いていただけ」という説明が通らないのはなぜか、就労のために買った場合になぜ資格外活動や不法就労助長にまで話が広がるのか。本稿では、報道された事例と警察庁の公表事例を手がかりに、買った側の立場から整理します。中国籍の当事者ご本人とご家族に向けた解説です。
「持っていただけ」で逮捕された事例
神戸新聞NEXTの2026年2月18日の報道によれば、兵庫県内で、中国籍の60代の女性が、自宅で偽造在留カードを所持していたとして、行使目的の偽造在留カード所持の疑いで逮捕されたと報じられています。報道では、本人が「働くことを考えて作ってもらった」「良くできていて使えると思って保管していた」と述べ、入手は3年ほど前だったとされています。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
この事例が示すのは、実際に使っていなくても、行使の目的をもって持っていれば処罰の対象になるということです。「まだ何もしていない」という感覚と、法律上の評価は一致しません。
提示して発覚した事例と、売った側の事例
読売新聞の2026年2月5日の報道によれば、長崎県内で、いずれも元技能実習生である中国国籍とベトナム国籍の内装工の男性2人が、前年8月に宿泊施設で偽造在留カードを提示したとして、偽造在留カード行使の疑いで逮捕されたと報じられています。2人はすでに約4年から6年の不法残留の容疑でも逮捕されており、報道ではベトナム国籍の男性は認め、中国国籍の男性は否認したとされています。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
売る側についても、警察庁が公表した「組織犯罪の情勢」に、令和7年4月、警視庁が、技能実習の在留資格の中国人の男2人を、自宅で行使目的に在留カード30枚を偽造し、不法残留の中国人らに提供して報酬を得ていたとして、在留カード偽造および偽造在留カード提供未遂の疑いで逮捕した事例が掲載されています。買い手と売り手は、同じ捜査の中で結び付けられていきます。
所持、行使、受供与はどう違うのか
在留カードに関する罪は、行為ごとに分かれています。出入国管理及び難民認定法(入管法)には、偽造・提供・所持等について73条の6以下に、貸与・受供与等について73条の8以下に、それぞれ処罰規定が置かれています。買って手元に置くこと、身分確認の場面で見せること、他人から譲り受けること。これらは日常の感覚では一続きの出来事ですが、法律上は別々の行為として評価されます。
したがって、「一度も見せていない」という説明は行使を否定する意味を持ちますが、所持の罪までは否定しません。逆に「自分は買っていない、もらっただけだ」という説明も、受供与という別の類型に触れます。どの行為を争い、どの行為は認めるのかを、早い段階で仕分けする必要があります。
「行使の目的」は、どう認定されるか
所持の罪で中心になるのは行使の目的です。捜査機関は、入手の経緯、支払った対価、保管の態様、就職活動や賃貸契約の予定、通信アプリでのやり取りといった事情から、この目的を推認します。「記念に取っておいた」「捨てるつもりだった」という弁解が通るのは、それを裏づける客観的な事情がある場合に限られます。
取調べでは、購入の動機について詳しく問われます。ここで働くために買ったと述べれば、それはそのまま行使目的の認定に使われ、同時に次の項目で述べる別の罪の端緒にもなります。何を述べるかは、弁護人と方針を決めてからにしてください。
買った動機が就労なら、話はそこで終わらない
偽造カードを買う動機の多くは就労です。しかし、資格外の就労をすれば、それ自体が入管法上の問題になります。入管法73条は資格外活動の罪を定め、専従の場合は24条4号イが退去強制事由となります。また、資格外活動の罪により拘禁刑に処せられた場合は、24条4号ヘが退去強制事由となります。
雇った側も無関係ではありません。不法就労助長罪は入管法73条の2に定められており、偽造カードを見せられた雇用主が、原本の確認を怠っていた場合には、責任を問われる余地があります。買った側の供述は、勤務先への捜査の入口になります。勤務先に迷惑をかけたくないという気持ちから事実を曖昧にすると、かえって全体の見通しが立たなくなります。
不法残留と重なるとき、手続はどうなるか
警察庁「令和6年における組織犯罪の情勢【確定値版】」(令和7年4月公表)によれば、令和6年の来日外国人による入管法違反の検挙件数5974件のうち、不法残留が3930件、偽造在留カード所持等が401件でした。中国の特別法犯の検挙件数1087件のうち入管法違反は737件(67.8%)で、うち不法残留423件、偽造在留カード所持等84件です。数字は、この二つが重なって現れやすいことを示しています。
不法残留は入管法24条4号ロの退去強制事由です。刑事処分と並行して退去強制手続が進むため、刑事の見通しだけを考えていると、気付いたときには入管の手続が先に進んでいます。退去強制を受けて出国した場合の上陸拒否期間は、前歴がなければ5年(入管法5条1項9号ハ)です。ご家族は、在留カードと旅券の所在、雇用や住居の資料、日本にいるご家族との生活実態を示す資料を早めに整えてください。刑事の防御と、在留特別許可を含む入管側の主張は、同時に組み立てる必要があります。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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