アパートの一室で在留カード37枚。生活の場が犯行現場とされるとき
2026/08/31
「同じ部屋に住んでいた人が、まとめて連れて行かれた」。在留カードの偽造事件でご家族に最初に届く知らせは、しばしばこの形をとります。本人が何をしたのかは分からないまま、部屋にあった機材とカードが運び出され、面会もできない。本稿では、警察庁が公表した検挙事例を手がかりに、居室が作業場とされた事案でなぜ同居人まで捜査対象になるのか、押収物の帰属をめぐる争いは初動のどこで決まるのか、在留資格にどう跳ね返るのかを整理します。
アパートの居室で在留カード37枚。公表された検挙事例
警察庁が公表した「組織犯罪の情勢」には、令和6年4月、警視庁が、技能実習の在留資格で在留していた中国人の男2人について、アパートの居室で販売目的に在留カード37枚と個人番号カード6枚を偽造したとして、在留カード偽造および有印公文書偽造の疑いで逮捕した事例が掲載されています。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
同じ資料には、令和3年6月、短期滞在の中国人の男1人と同居人の中国人の男3人(いずれも技能実習)が、SNSで注文を受けて偽造したカードをインドネシア人らに販売したとして検挙された事例も載っています。「同居人」という語が公表資料にそのまま現れていることが、この類型の性格を示しています。
なぜ同居人まで、まとめて調べられるのか
居室は共有空間です。パソコン、プリンター、ラミネート機、カードの原板、印刷済みの半製品。これらが玄関先や居間にあれば、捜査機関の出発点は「この部屋に住む者は当然に認識していたはずだ」という見方になります。誰が発注し、誰が印刷し、誰が発送したのかという役割の違いは、取調べと証拠の突き合わせを経てはじめて分かれます。
共謀の有無は、実際には客観的な材料で判断されます。機材が置かれていた場所と部屋の使用区分。指示役とのやり取りが誰の端末に残っているか。報酬の入金履歴が誰の口座にあるか。機材や原材料を誰の名義で買ったか。賃貸借契約と光熱費の負担者は誰か。取調べで曖昧に答えるより、これらの資料がどちらを向いているかのほうが、最後には重い意味を持ちます。
なお警察庁「令和6年における組織犯罪の情勢【確定値版】」(令和7年4月公表)では、令和6年の来日外国人による刑法犯の共犯事件率は41.1%、日本人は12.5%でした。ただしこれは刑法犯の数字で、在留カード偽造のような特別法犯を含まず、「来日外国人」も永住者等を除いた統計上の区分です。国籍と犯罪傾向を結びつけて読むことはできません。
押収された物が「誰のものか」は、最初の数日で決まる
防御の成否を分けるのは、多くの場合、逮捕から勾留が決まるまでの数日間です。逮捕後、司法警察員は48時間以内に検察官へ送致し、検察官は24時間以内かつ逮捕から72時間以内に勾留を請求します。勾留は原則10日、延長を含めて最大20日。この間に押収物の帰属をどう説明したかが、その後の訴因の組み立てを左右します。弁護人は押収品目録交付書を確認し、被疑事実として特定された枚数と、単に押収されただけの物量とを切り分けます。
初動で立てるべきは、抽象的な否認ではなく、区別と特定です。自分が触れた物と触れていない物を分ける。部屋のどの区画をいつから使っていたかを述べる。機材の購入者・契約名義・支払い履歴を指摘する。指示役とのやり取りが自分の端末にないなら、その点を早く明示する。逆に、記憶が曖昧な部分を推測で埋めない。供述調書は署名前に読み聞かせを受け、訂正を申し立てられます。曖昧なまま署名した一文が、後に共謀の根拠となることは珍しくありません。
在留カード偽造と有印公文書偽造は、別の罪として重なる
在留カードの偽造・提供・所持等については、出入国管理及び難民認定法(入管法)に73条の6以下の処罰規定が置かれています。個人番号カードの偽造は刑法の有印公文書偽造の問題です。公表事例で二つの罪名が併記されていたのは、偽造の対象が異なる文書にまたがっていたからです。この類型で中心になるのは「行使の目的」「販売目的」の有無であり、注文の履歴、報酬の単価、発送先の広がりが、その認定に使われます。
技能実習の在留資格には、どう跳ね返るのか
刑事処分と在留の帰趨は、連動しつつも別の手続で決まります。入管法24条4号リは無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、ただし書により刑の全部の執行猶予が付いた場合は除かれます。有罪であれば当然に退去強制となるわけではなく、「執行猶予なら安全」とも言い切れません。別表第一の在留資格者に限って適用される24条4号の2の特定犯罪は危険運転致死傷などに限られ、在留カード偽造は入りません。
実際に重いのは、身柄拘束で実習が続けられなくなることから生じる帰結です。在留資格の取消しには、在留資格に応じた活動を継続して3か月以上行っていない場合(入管法22条の4第5号)や、住居地の届出義務違反等(同第6号)が定められています。出入国在留管理庁の統計では、令和7年の在留資格取消件数は1446件、うち技能実習が973件(67.3%)、中国は66件でした。刑事事件より先に、活動の中断と届出の不備で在留を失うことがあります。
ご家族が今日できることは何か
まず、本人の在留カードと旅券の所在を確認してください。所在が分からないと、後の入管手続で余計な時間を取られます。次に、賃貸借契約書、光熱費の引落し口座、給与明細、機材の購入履歴など、部屋の使用状況と資金の流れを示す資料を集めてください。押収物の帰属を争ううえで最も具体的な材料になります。
面会は、接見禁止(刑事訴訟法81条)が付くとご家族には認められないことがありますが、弁護人との接見(同39条1項)は制限されません。外国人が逮捕された場合、本人が要請すれば領事関係に関するウィーン条約36条1項に基づく通報が行われます。実習実施者への説明を急ぐと、かえって不利な記録を残すことがあります。伝える時期は弁護人と相談してください。
中文版:在公寓一室伪造在留卡37张,生活场所被当作犯罪现场时
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舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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