在留カードと個人番号カードを同時に偽造すると、成立する罪は二つになります
2026/08/31
偽造の事件で、押収された物の中に在留カードと個人番号カードの両方が含まれていることがあります。ご本人からすれば「同じ作業をしただけ」でも、法律上は別々の犯罪が二つ成立します。そして、この二つが併存することは、刑の重さの上限を動かし、結果として在留資格の帰趨にも影響します。この記事では、報道された事案をもとに、なぜ罪が二つになるのか、二つになると量刑の枠がどう動くのか、そして「1年を超える実刑」という分水嶺の意味を説明します。
報じられている事案
産経新聞の2024年6月2日報道によれば、実習先から失踪した中国籍の技能実習生の男性らが、マイナンバーカードや在留カードを偽造したとして立件され、入管法違反と有印公文書偽造等の疑いが持たれたとされています。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。この事案が示すのは、偽造の作業が一つの部屋で連続して行われていても、対象となる文書が違えば、適用される条文も違ってくるということです。
二つの罪はどこが違うのか
在留カードの偽造・提供・所持等は、出入国管理及び難民認定法(入管法)の73条の6以下に処罰規定が置かれています。これは、外国人の在留管理という制度の信頼を守るための規定です。他方、個人番号カードは市区町村長が発行する公文書であり、その偽造は刑法の有印公文書偽造の問題になります。こちらが守っているのは、公文書一般に対する社会の信頼です。守るべき利益、すなわち保護法益が違うため、両者は別個の犯罪として成立し、一方が他方に吸収されることはありません。同じ機械で、同じ日に、同じ目的で作ったとしても、この結論は変わりません。
二罪が併存すると、量刑の枠はどう動くか
複数の罪が同時に判断されるとき、刑は、最も重い罪の法定刑を基礎に一定の加重をした範囲内で決められます。これが併合罪の処理です。実務上の意味は、刑の上限が引き上げられることそのものよりも、量刑の議論の出発点が上がることにあります。裁判所は、二つの文書偽造が行われたという事実を、行為の広がりとして評価します。とりわけ、個人番号カードは、本人確認の場面で在留カードと組み合わせて使われることが多く、両方を偽造することは、身分の偽装をより完成度の高いものにする行為だと評価されやすい。この点は、量刑を検討するうえで避けて通れません。
「1年を超える実刑」という分水嶺
ここが在留にとっての決定的な線です。入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由とし、ただし書により刑の全部の執行猶予が付いた場合は除かれます。一部執行猶予の場合も、実刑部分が1年以下であれば除かれます。したがって、同じ有罪でも、1年を超える実刑になるかどうかで、退去強制手続の入口に立つかどうかが決まります。さらに、在留特別許可の場面でも、入管法50条1項ただし書は、無期又は1年を超える実刑(全部猶予・一部猶予で実刑部分1年以下を除く)に加重要件を定めています。二罪の併存によって量刑の議論の出発点が上がることは、この線に近づくことを意味します。
弁護活動の焦点はどこに置くか
第1に、罪数の整理です。同一の機会に複数枚を作った場合の一罪・数罪の評価、二つの文書偽造の関係。ただし、罪数の主張が常に有利とは限らないため、量刑全体を見た戦略的な判断が必要です。第2に、枚数と役割です。何枚の偽造が証拠によって特定できるのか、本人が作業のどの部分を担当したのか。第3に、目的です。販売目的か、自己使用目的か。自己使用のために一組を作った事案と、注文を受けて量産した事案では、評価が大きく異なります。第4に、更生の環境です。帰国の意思と受入れ先、身元引受人の存在、家族の状況。実刑を避けるための主張は、これらの積み重ねの上にしか立ちません。
ご家族に知っておいていただきたいこと
統計を見ておきます。出入国管理統計(令和7年)では、退去強制令書発付7,722人のうち、4号リ単独は41人(中国11人)、不法残留との並立が162人(中国36人)です。数のうえでは決して多くありませんが、中国籍については発付総数686人中47人が4号リに関係しており、比率で見ればベトナムの約3倍です。「刑事事件になれば当然に送還される」という理解は不正確ですが、「二つの罪が付いた実刑事件」であれば、この線に届く可能性を現実的に見なければなりません。ご家族には、日本での生活実態を示す資料の収集と、帰国後の生活設計の両方を、並行して考えておいていただきたいと思います。どちらの結論になっても対応できるようにしておくことが、最も現実的な備えです。
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舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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