日当1万5千円で偽造を続けた失踪実習生。報酬の低さは情状になるのか
2026/08/31
偽造在留カードは、一枚あたり数万円で取引されると報じられることがあります。他方、実際に作業をしていた人が受け取っていたのは日当だった、という報道もあります。この落差そのものが、事件の構造を語っています。この記事では、実習先から失踪した技能実習生が、通信アプリ経由の指示を受けて偽造作業を続けたとされる事案を素材に、報酬の低さと離脱の困難さを、どのような資料で情状として立証していくのかを具体的に説明します。
報じられている事案
産経新聞の2024年6月2日報道によれば、実習先から失踪した中国籍の技能実習生の男性らが、千葉県内のアパートで個人番号カードや在留カードを偽造したとして立件されたとされています。報道では、通信アプリの微信を経由して指示役から指示を受け、日当約1万5千円で偽造を行っていたこと、偽造カードは一枚1万円から2万円で販売されていたことが伝えられています。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。関連する工場が別の地域にもあったとされ、作業が分散して行われていた可能性がうかがえます。
「日当1万5千円」という数字が語ること
報道が正しいとすれば、一日に数十枚を作れば、販売額は数十万円になります。それに対して実行役の取り分は日当1万5千円です。この比率は、誰が事業として利益を得ていたのかを示しています。刑事の量刑では、犯行によって得た利益の額は重要な事情の一つですから、実行役が受け取った額が作業の対価にとどまり、販売利益に参加していなかったことは、犯情を評価するうえで意味を持ちます。ただし、これは責任を免れる理由にはなりません。日当をもらって偽造していたこと自体が犯罪です(入管法73条の6以下、および個人番号カードについては有印公文書偽造の問題)。主張すべきは「悪くない」ではなく、「この構造の中でどの位置にいたか」です。
通信アプリ経由の指示という構造
この類型では、指示役と実行役が直接会わないことが少なくありません。募集は通信アプリやSNS上で行われ、採用の連絡も、作業の指示も、報酬の支払いも、すべて画面越しに進みます。実行役は、指示役の本名も所在も知らないまま、指示された作業を続けることになります。指示役が国外にいる場合、その摘発は容易ではなく、結果として実行役だけが処罰されます。警察庁が公表する「組織犯罪の情勢」でも、中国国内の指示役の指示を受けて偽造在留カードを製造するという形態が指摘されています。ここで重要なのは、この構造が量刑上どう評価されるかであって、構造の存在自体が本人を免責するわけではないという点です。
従属性と離脱困難性を立証する具体的な方法
従属性は、印象で語っても伝わりません。次のような資料の積み上げが必要です。第1に、募集の入口です。どのような文言の投稿を見て応募したのか。「簡単な作業」「日払い」といった表現が、違法性の認識を薄めた事情として意味を持つことがあります。第2に、報酬の実態です。日当の額と支払方法、作業日数、総受領額。第3に、作業の裁量の有無です。誰が原版を用意し、何枚作るかを誰が決めていたのか。第4に、離脱を申し出た事実の有無と、その際の反応です。断ったときに何を言われたのか。第5に、生活状況です。失踪の経緯、借金の額、家族への送金の義務、住居を指示役側が用意していたかどうか。これらは、本人が身柄を拘束された後では集めにくいものが多く、ご家族の協力が欠かせません。
刑事処分と在留への波及
この類型では、偽造の罪に加えて、本人が既に不法残留の状態にあることが通例です。不法残留罪は入管法70条1項5号に定められ、法定刑は同項柱書により3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、又はこれらの併科です。そして退去強制の面では、不法残留は24条4号ロに、有罪判決の刑が無期又は1年を超える拘禁刑(全部執行猶予を除く)となれば24条4号リに、それぞれ該当します。技能実習の在留資格は入管法別表第一に属しますが、別表第一の在留資格者に限って適用される24条の4号の2の特定犯罪は、危険運転致死傷など限られたものであり、在留カード偽造はここには含まれません。処分の見通しは、役割と枚数、そして前科の有無によって大きく変わります。
ご家族が今日からできること
ご本人が失踪してから逮捕されるまでの間、どこで、誰と、どのように暮らしていたのかを、分かる範囲で書き出してください。送金の記録、通話やメッセージの履歴、家族が把握している借金の内容。これらは従属性を示す最も基礎的な資料です。また、実習先を離れた経緯(賃金の未払い、長時間労働、体調、監理団体とのやり取り)が分かる資料があれば、忘れずに保存してください。失踪に至る経緯は、本人の落ち度としてだけでなく、置かれていた状況として評価される余地があります。面会は接見禁止で制限されることがありますが、弁護人との接見は制限されません(刑訴法39条1項)。
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舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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