宿泊のときに偽造在留カードを見せた。行使罪はその瞬間に成立します
2026/08/31
偽造在留カードを持っていること自体が犯罪になることは、比較的知られるようになりました。では、それを人に見せた場合はどうなるのか。実は、見せた瞬間に別の犯罪、すなわち行使の罪が成立します。しかも「見せる」場面は、警察官に対する提示だけではありません。宿泊の受付、携帯電話の契約、口座の開設、部屋の賃貸、勤務先への提出。日常のあらゆる場面が含まれます。この記事では、報道された事案をもとに、提示行為が行使にあたる範囲の広さと、実際にどこから発覚するのかを整理します。
長崎で報じられた事案
読売新聞の2026年2月5日報道によれば、中国籍とベトナム籍の内装工の男性各1人(いずれも元技能実習生)が、前年8月に宿泊施設で偽造在留カードを提示したとして、偽造在留カード行使の疑いで逮捕されたと報じられています。発覚の端緒は、警察官の巡回中に、宿泊施設が保管していた在留カードの写しに不審な点が見つかったことだとされます。2人は既に約4年から6年の不法残留の容疑でも逮捕されており、ベトナム籍の男性は認め、中国籍の男性は否認していると報じられています。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
「行使」とはどういう行為か
出入国管理及び難民認定法(入管法)は、在留カードの偽造・提供・所持等を73条の6以下で処罰しています。このうち行使とは、偽造されたカードを真正なものとして他人に認識させる行為をいいます。相手が警察官である必要はなく、相手が偽造を見抜けなかったかどうかも問いません。宿泊の受付で身分確認のために差し出す、コピーを取らせる、写真を撮らせる。これらは典型的な行使です。金銭的な被害が生じていなくても、また相手方が誰も損をしていなくても、成立します。カードの真正性が社会全体で信頼されていること自体が守るべきものだからです。
宿泊時の提示から発覚するという経路
報道の事案が示しているのは、発覚の経路が本人の想像とかなり違うということです。カードを見せた時点では何も起きなかった。しかし施設はその写しを保管しており、後日、警察官の巡回や照会の際に確認されて、そこから捜査が始まる。つまり、提示した日と摘発の日が半年以上離れることがあります。同種の経路は、賃貸契約書に添付された写し、勤務先が保管する雇用時の本人確認書類、携帯電話会社の契約書類にも存在します。「もう時間が経ったから大丈夫」という判断は、この類型では成り立ちません。書類として残るものは、時間を置いてから照合されます。
この類型で争点になるところ
第1に、提示した人物が本人であるかどうかです。写しの画質、施設の記録、宿泊者名簿の記載、防犯カメラ映像の保存期間。否認事件では、ここが最初の争点になります。第2に、偽造であることの認識です。他人から手渡され、本物だと信じていたという弁解は、入手経緯と対価の額によって評価が分かれます。第3に、共犯関係です。同行者がいる場合、共謀の有無と範囲が問題になります。報道の事案でも認否が分かれていますが、共犯者の一方が認めているからといって、他方の犯罪事実が当然に認定されるわけではありません。供述の変遷や引き込みの危険を含め、証拠の検討は個別に行う必要があります。
在留への影響と、二つの手続の並走
報道の事案では、行使の被疑事実に加えて、長期の不法残留が既に問題になっています。不法残留は入管法24条4号ロの退去強制事由であり、刑事処分の結果とは別に退去強制手続が進みます。他方、行使罪について有罪となった場合の刑の重さは、24条4号リ(無期又は1年を超える拘禁刑。全部執行猶予を除く)の該当性に関わります。もっとも、出入国管理統計(令和7年)によれば、退去強制令書発付7,722人のうち4号リ単独は41人であり、圧倒的多数は不法残留による5,778人です。刑事事件になったから直ちに送還されるという理解も、逆に刑が軽ければ在留できるという理解も、どちらも正確ではありません。
ご家族が最初にすべきこと
まず、本人が宿泊した施設や勤務先に、ご家族から直接連絡することは避けてください。事実確認は弁護人を通じて行うべきです。次に、本人が身柄を拘束された場所(警察署)と担当部署を確認し、可能な限り早く弁護人の接見を手配します。逮捕後は72時間以内に勾留請求の判断がなされ、勾留は原則10日、延長を含めて最大20日です。この期間の初期に弁護人が入るかどうかで、供述の整理も、身柄の帰趨も変わります。差し入れる衣類は、季節に応じたものと、下着の替えを多めに。中国語の書籍は、留置施設の運用で冊数の制限があります。本人が希望すれば領事機関への通報が行われます(領事関係に関するウィーン条約36条1項)。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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