在留カードを偽造しただけで、まだ誰にも渡していない場合はどうなるか
2026/08/31
在留カードの偽造で摘発された方から、「作っただけで誰にも渡していない」「試しに作ってみただけだ」という説明を聞くことがあります。しかし日本の入管法は、偽造そのものと、行使する目的での提供や所持を処罰の対象としており、実際に使われる前の段階で処罰が及びます。この記事では、報じられた事案を手がかりに、行使の目的がどのような事実から推認されるのか、その推認にどう反論するのか、そして在留資格への影響を説明します。
報じられた事案の概要
2026年2月27日付けの報道によれば、中国籍の男性が、2月3日ごろ自宅で共謀して、永住者などと記載した在留カードを偽造したとして、入管法違反の疑いで逮捕されたとされています。携帯電話からは約200人分の偽造データが押収され、そのうち半数近くが中国籍名義であったと報じられています。なお、この報道については配信元の媒体名を当方で確認できていません。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
渡していなくても処罰されるのは、なぜか
出入国管理及び難民認定法(入管法)は、在留カードの偽造や変造、偽造カードの行使、行使の目的での提供や収受、行使の目的での所持を、それぞれ処罰の対象としています(73条の6以下)。カードの貸与や受供与も、別に処罰の対象とされています(73条の8以下)。
この構造は、偽造カードが流通してから取り締まるのでは遅い、という考え方に立っています。在留カードは、就労できるかどうか、日本に適法に滞在しているかどうかを、雇用主や行政の窓口が確認するための基礎です。その基礎が壊れると、確認の仕組み全体が働かなくなります。だからこそ、法定刑は重く定められており、実刑となれば1年を超えることも現実にあり得ます。罰金で終わる類型ではないという点を、最初に理解しておく必要があります。
行使の目的は、どのように推認されるのか
捜査機関は、本人が目的を認めなくても、次のような客観的な事実を積み上げて推認します。
- データの保有状況。何人分のデータを、どのような形式で保存していたか
- 注文の記録。氏名、生年月日、在留資格の種類を指定するやり取りが残っていないか
- 報酬の体系。出来高で支払われていたか、日当だったか、価格表があったか
- 資材と機材。ホログラムの材料、専用の用紙、印刷機器を備えていたか
- 連絡の相手。指示を出す者、受け取りに来る者との継続的なやり取りがあるか
約200人分といった数量が報じられる事案では、この数量自体が目的を示す事実として扱われます。個人が自分のために試したという説明とは、量的に整合しないからです。
その推認に、どう反論するのか
第1に、押収されたデータの点数が、そのまま起訴事実になるわけではありません。起訴されるのは、日時、対象、行為が特定できる範囲に限られます。訴因がどう構成されているかを精査し、証拠のない部分まで前提にされていないかを確認することが出発点です。
第2に、データの由来を分けることです。自分が作成したのか、他人から送られてきて端末に残っていたにすぎないのか。端末を共用していた場合、そのデータが誰の操作によるものかは、当然に明らかとはいえません。作成日時、アカウント、アプリの利用記録を突き合わせる必要があります。
第3に、時期の切り分けです。起訴された行為の前後で、関与の態様が変わっていることがあります。第4に、共謀の範囲です。指示を受けて作業していた立場と、注文を取り価格を決めていた立場では、責任の重さが違います。日当で作業していたという事情は、共犯関係を否定する事情にはなりませんが、量刑では意味を持ちます。
統計から見た、この類型の位置づけ
警察庁「令和6年における組織犯罪の情勢」によれば、令和6年の来日外国人の入管法違反の検挙は5974件で、そのうち偽造在留カード所持等は401件です。中国に関しては、特別法犯の検挙件数1087件のうち入管法違反が737件(67・8%)を占め、偽造在留カード所持等は84件(7・7%)とされています。件数としては不法残留が中心ですが、偽造に関わる事案は組織性が強く、捜査が広がりやすいという特徴があります。
在留資格への影響
在留カードの偽造は、有罪判決だけで退去強制事由となる入管法24条4号チの薬物関係ではなく、別表第一の在留資格者に限られる同条4号の2の特定犯罪にも含まれません。したがって、退去強制事由として問題になるのは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた場合の同条4号リです。全部執行猶予は但書で除外されますが、この類型は法定刑が重いため、実刑となれば該当し得ます。加えて、身柄拘束が長引いて就労が途切れれば、在留資格に応じた活動を継続して3か月以上行っていないことを理由とする取消しの問題も生じます(入管法22条の4第5号)。
取調べと、ご家族が今日できること
取調べでは、目的を尋ねる質問が繰り返されます。分からない部分を推測で答えると、その供述が推認の土台になります。記憶にないことは記憶にないと述べ、調書に署名する前に読み上げてもらってください。ご家族は、本人の端末や自宅の物を動かさないでください。整理したつもりの行為が、証拠の隠滅と受け取られます。そのうえで、勤務先との連絡、在留カードと旅券の所在、在留期限を確認し、弁護人に伝えてください。
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舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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