ブローカーに200万円を払った側は、被害者でもあるのか
2026/08/31
偽装結婚の事件では、婚姻届を出した外国人の側が、仲介者に多額の金銭を支払っていることがあります。支払った本人からすれば、金を取られたのは自分であり、被害者のようにも感じられます。しかし日本の刑事法では、支払ったという一事によって被害者になるわけではありません。この記事では、報じられた事案を手がかりに、支払った側が法律上どう位置づけられるのか、勧誘のされ方と本人の認識の程度をどう分けて論じるのか、そして従属的な立場が量刑のどこで効いてくるのかを説明します。
報じられた事案の概要
2026年6月23日のCBCテレビの報道によれば、岐阜県瑞穂市において、婚姻の意思がないまま虚偽の婚姻届を提出したとして、中国籍の男1人と日本人の女1人が、電磁的公正証書原本不実記録及び同供用の疑いで逮捕されたと報じられています。男は日本で長く働くための資格が欲しかったと認めていると報じられ、男が仲介者へ支払った額は少なくとも200万円、女が受け取った報酬は100万円以上とされています。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
支払った側は、法律上どう位置づけられるか
虚偽の婚姻届を出す行為は、戸籍という公的な記録に事実でない内容を記録させるものであり、届出をした当事者は、その罪の当事者として扱われます。仲介者に金銭を支払ったことは、この評価を動かしません。むしろ、金銭を支払ってまで婚姻の形を整えたことが、計画性を示す事情として働くことがあります。
支払った金銭を取り戻せるかというご質問もよくいただきますが、違法な目的のために交付した金銭の返還を民事で求めることは、法律上、容易ではありません。仲介者が最初から履行する気がなく金銭をだまし取ったという事案であれば、詐欺の被害という側面が生じ得ますが、その主張は自らの関与を前提とするため、刑事の防御方針と切り離して考えることはできません。
勧誘の態様と、本人の認識の程度は分けて論じる
実務では、この二つを一緒にしないことが大切です。第1は、どのように持ちかけられたかという外形です。仕事の紹介と抱き合わせで提案されたのか、同郷の知人を介して断りにくい形で言われたのか、在留期限が迫って追い詰められた時期を狙われたのか。第2は、本人が何をどこまで分かっていたかという内心です。手続の一つにすぎないと説明されていたのか、犯罪になると知りながら選んだのか。
ここで注意すべきなのは、法律を知らなかったという弁解が、それだけでは罪を免れる理由にならないことです。刑法38条3項は、法律を知らなかったとしても、そのことによって罪を犯す意思がなかったとすることはできないと定めています。ただし同項は、情状によって刑を減軽することができるとも定めています。つまり、認識の程度は、犯罪の成否ではなく量刑の場面で意味を持ちます。
従属的な立場は、どこで効いてくるのか
量刑では、組織の中でどの位置にいたかが強く影響します。次のような事情は、従属的な立場を示す材料になります。
- 企画したのは誰か。相手方の女性を探してきたのは誰か
- 利益を得たのは誰か。本人は支出しており、利得がない
- 反復性があるか。一度限りか、他人にも同じ手口を紹介したか
- 報酬の分配に関与したか。仲介者の資金の流れを把握していたか
- 断ったことがあるか。断った後にどう働きかけられたか
これらは、本人の記憶だけでは示せません。送金の記録、勧誘のやり取りが残る通信履歴、紹介者との関係を示す第三者の話を、時系列でそろえる必要があります。逆に、仲介者をかばって関与の経緯を曖昧にすると、自分が主導したという構図のまま処分が決まってしまいます。
それでも、支払ったことが軽く見られるわけではない
従属性を主張することと、事の重さを否定することは違います。金銭を払って制度を迂回しようとする需要があるからこそ、仲介の市場が成り立っているという見方は、検察官も裁判所も持っています。金額が大きいほど、思いつきではなく準備された行動だと評価されやすくなります。したがって、弁護の組み立ては、被害者だと訴えることではなく、経緯を正確に示したうえで、自分の関与の範囲を過不足なく明らかにすることに置かれます。
取調べと、在留への影響
取調べには通訳人が付きますが、勧誘の経緯という微妙な事実は、通訳を経ると単純化されがちです。調書に署名する前に読み上げてもらい、違う部分は指摘してください。共犯者が先に供述している場合、その内容に引きずられた質問が続くことがあります。
在留については、虚偽の申請によって在留資格が与えられていたと判断されれば、偽りその他不正の手段による許可として在留資格の取消しの問題になります(入管法22条の4第1号)。刑事で執行猶予がついても、入管の手続は別に進みます。出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号リの退去強制事由は、無期又は1年を超える拘禁刑の実刑を要件とし、全部執行猶予は但書で除外されますが、取消し後の在留の帰趨はこれとは別の問題です。
ご家族が今日できること
まず、支払の記録を集めてください。銀行の送金明細、送金アプリの履歴、現金を渡した日時と場所の記憶、領収書に代わるやり取りの画面です。次に、勧誘のやり取りを削除しないでください。不利に見える文言が含まれていても、全体の流れが従属性を示すことがあります。そして、紹介者との関係を整理し、いつ、誰を介して、どんな言葉で持ちかけられたのかを時系列で書き出してください。ご本人が身柄を拘束されている場合、この作業はご家族にしかできません。
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舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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