凶器を用意していた事実は、計画性の証拠として使われる
2026/08/31
共犯事件の記録を読んでいて、量刑の分かれ目になりやすいのが「凶器をいつ、誰が用意したか」という一点です。凶器の準備は、単に危険性を示すだけでなく、共謀がいつ成立していたかを遡って基礎づける働きをします。この記事は、ご家族が「本人は凶器のことは知らなかったと言っている」という状況に置かれている方に向けて、この主張がどう扱われ、何をもって争うのかを説明します。
報道された事案の輪郭
時事通信は2026年6月2日、東京都中央区銀座の路上で高級腕時計の売却代金2185万円が入った紙袋が奪われ、被害者がスタンガンを押し当てられて約2週間のけがを負ったとして、中国籍の男女3人が強盗致傷の疑いで逮捕されたと報じています。起訴・有罪が確定したものではなく、無罪推定が及びます。報道からは、凶器を誰が用意したのか、いつ入手したのかは明らかにされていません。以下は、この類型で一般に問題となる構造の説明です。
凶器の準備が持つ、三つの意味
第1に、計画性の裏づけです。その場の勢いではなく、あらかじめ道具をそろえていたという事実は、犯行が周到であったことを示し、量刑を押し上げます。第2に、暴行の程度についての予定です。何を用意したかは、どの程度の力を行使するつもりだったかを推測させます。第3に、そして実務上最も重いのが、共謀の時期です。凶器を入手した時点で既に犯行の合意があったとみられれば、共謀の成立時期はその時まで遡り、準備段階の一切が共犯者全員の責任の範囲に取り込まれていきます。
逆に言えば、凶器の入手時期と経路を丁寧に解きほぐすことは、共謀の範囲を限定する作業に直結します。
「持ってきたのは自分ではない」という主張は通るか
共同正犯の責任は共謀の範囲に限られますから、凶器の使用が共謀の内容に入っていなければ、その結果まで責任を負う理由はありません。したがって、持参者以外の共犯者については、使用を予期していたかどうかが正面からの争点になります。
ただし、裁判所は「知らなかった」という供述だけでは動きません。犯行前に凶器の話題が出ていたか、集合場所で凶器を目にする機会があったか、犯行中に使用を認識しながら行動を続けたか、犯行後に凶器の処分に関与したか。これらの外形から、少なくとも黙示の了解があったと認定されるのが通例です。とりわけ、使用を目撃した後も逃走や分配に加わったという経過は、追認と評価されやすいところです。
では、何をもって争うのか
争点を支えるのは客観的な資料です。凶器の購入履歴や配送記録があれば、入手の時期と主体が特定できます。当日までの通信履歴を時系列に並べれば、凶器に関する話題の有無と、話題が誰の間で交わされていたかが見えます。位置情報は、集合の時刻と各人の動線を示します。
また、当初の計画が別のものであった場合、たとえば置かれた荷物を持ち去るだけの話であったのに、当日その場で暴行に及んだという経過であれば、共謀の内容と実際の行為との食い違いを主張する余地があります。この主張は、供述の一貫性と客観的資料の裏づけがそろって初めて力を持ちます。取調べの初期に曖昧な供述をしてしまうと、後から覆すのは容易ではありませんので、早い段階での弁護人との打合せが決定的です。
量刑と在留資格への影響
計画性が認められると、量刑は重い方向へ動きます。そして刑期が1年を超える実刑になると、入管法24条4号リの退去強制事由に当たります。全部執行猶予はこの号から除かれていますので、実刑か否か、実刑であれば1年を超えるか否かが分岐点になります。出入国管理統計(令和7年)では、この号を単独の理由とする退去強制令書の発付は全国で41人にとどまりますが、中国籍については不法残留との並立を含めて47人であり、中国籍の発付総数に占める比率は他の主要国籍より高く出ています。
ご家族にお願いしたいこと
凶器に関する事実は、ご家族が本人から直接聞き出そうとしない方が賢明です。接見禁止が付いている場合はそもそも面会できませんし、仮に手紙で触れれば、口裏合わせを疑われて勾留や保釈の判断に響きます。事実確認は弁護人に委ねてください。ご家族にお願いしたいのは、本人の生活状況を示す資料の収集です。来日の経緯、日本での就労と収入、家賃や税の支払、母国の家族構成といった資料は、量刑の場面でも、後に在留特別許可を求める場面でも、本人の定着性を示す基礎資料になります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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